【MARVEL】This is my selfishness
第8章 8th
姿勢のいいバッキーはどこを見ているんだろうと斜め上を見上げる。
凛々しいその顔つきが近距離にあって、胸の高鳴りがうるさくなる。
───今この人に手を握られ、この人の手が腰に充てられ、この人と踊っているんだ────
一つ一つを意識してしまう。
きっとバッキーにとってはなんてことないダンスだろうけれど、わたしは初めて。
きっとこれは一生忘れない。
バッキーがどれだけの人と踊ってきたとしても、今この感じている想いはわたしだけのもの。
うっそりと噛み締めていると、その凛々しい瞳が下を向いた。
視線がかち合っても、その瞳に見惚れてしまって視線を外すことが出来ない。
「口、開いてるぞ」
クッ、と喉を鳴らすように笑うバッキーに言われて、ようやく自分の口がポカン、と開いていることに気付いてキツく1文字に結ぶ。
「だいぶ慣れてきたみたいだな」
『…うん。おかげさまで』
時々、歩幅やリズムがズレて、バッキーの足を掠めるような踏み方をしてしまっていたけど、段々とリズムにも慣れてきてその回数はかなり減り、安定している。
『ねえ、なんですぐにわたしを見つけれたの?』
ふと、疑問が浮き上がった。
わたしはぼーっとしていただけだけど、それでもバッキーがこの人数の中、わたしをすぐに見つけれたのは何故だろう。
偶然というのが1番可能性が高い答えではあるけれど、別の答えを期待してしまう……。
「マーキングしてたんだ」
キリッと真面目な顔で(仮面しているけど)答えるバッキーに思わずキョトンとする。
『ま、マーキング?』
そんな動物じゃあるまいし。
「…冗談だ。特に何故、という訳でもないが、今日ここに来てから俺は君しか見ていないんだ」
『……』
わたししか見てないという言葉に口が空振りをする。
「君しか見てないから君の背格好もマスクもドレスも靴も──そのネックレスも全部覚えてる。それだけを追ったまでだ」
『…な、なるほど……?』
つまり、わたしのドレスやマスクを覚えていたから、わたし以外の人のドレスやマスクに惑わされることがなかった、っていうこと…だろうか?それでもかなりのスピードで再会できた。
わたししか見ていないという言葉を噛み締めて、口元がにやけてしまいそう。