【MARVEL】This is my selfishness
第8章 8th
『わたしが…約束してるのは…』
なんでだろう。
名前を言うだけなのに、何故かすごく胸が詰まる。
喉が締まるようになって、上手く声が出せない。
『…バッキー・バーンズ…』
出た声は、自分のものとは思えないくらい掠れ気味で囁くような呟きになった。は、恥ずかしい……
恥ずかしい思いをしたのに、言わせた本人からは何もアクションがない。ずっとわたしと目が合ってるから、聞こえてなかったわけではないはずなんだけど……
『ねえ、』と口を開きかけた時には、体が圧迫されていた─────いや、圧迫というか、バッキーに抱きしめられて────
『バ、バッキー?』
まるで隙間なく抱きしめるようにされていて、身動きが取りづらい。
ギリギリ動かせた手でバッキーの背中をペチペチと叩く。
「君は────」
『え?』
ようやくバッキーが何か言った気がしたけど、それはワッと大きく聴こえたオーケストラたちの演奏によって掻き消された。
その音に合わせてちらほらとペアになった男女が踊り出していく。
レオポルドさんが言っていたダンスタイムが始まったようだ。
「…俺と踊ってくれるか?」
ようやく身動きが取れるようになったと思ったら、今度は恭しく手を差し出された。
『わたし、こういうダンス、した事ないんだけど…』
「俺に任せろ」
その言葉に勇気づけられ、差し出された手に自分の手を重ねる。
そのまま流れるように腰に手が当てられる。
『肩に手を置いたらいいんだっけ?』
「ああ」
見たことある形にはなったかな?
内緒話のように耳元でバッキーがステップを教えてくれる。
けれどその吐息がくすぐったくて上手く聞き取れている自信が無い。
『こ、こう?』
「ああ。上手い。それを音に合わせて繰り返すんだ」
『わかった』
ついステップに夢中になって足元ばかり見ていると、バッキーに「姿勢が悪いぞ」と背骨を下から上になぞられた。
『ヒッ、』
変な言葉を発しながら、飛び上がるように反射的に顔を上げたものの、一体どこを見ればいいのか…。
踊りながらゆっくり流れる周りの人達や壁、装飾?それはそれで目が回りそうな気がしてくる。
バッキーの肩辺りにギリギリ目線が届くくらいだからなかなか周りを見渡せないし……。