【MARVEL】This is my selfishness
第8章 8th
完璧なそのスタイルに思わず見惚れる。
バッキーから目を離せずにいると、その視線はお互いにかち合った。
そのまま何も言えずにいると、しびれを切らしたようにケリーさんが「いい加減、お互い何か言ったらどう?」と頭を抱えながら言った。
『えっ、あ、えっと──』
「綺麗だ」
『っ!』
何て言って褒めようかとまごまごしているとバッキーがストレートに言ってくれた。
その言葉に胸が熱くなり、その熱を冷まそうと涙が滲む。
ダメだ。せっかくケリーさんに綺麗にメイクしてもらったのに…。
『バ、バッキーもいつもよりかっこいい、よ…』
なんとか涙が零れるのを堪えながら今度はわたしがバッキーを褒める。
お互いを褒め合ったは良いものの、またなんとなく気まずいような、気恥しい空気が流れる。それをまたケリーさんがため息をつきながら「少し肌寒いかもしれないからこれ、羽織っていきなさい」と丈の長いケープコートを渡してくれた。
「1度お店に顔だして行きなさいよ。ロンが見たがってるわ。ここの鍵なら私がロンに返しておくから大丈夫よ。着替えも明日取りに来たらいいって言ってたわ」
『あ、ありがとうございます…!』
貴重品や必要なものはハンドバッグに入れたし、渡されたケープコートも持った。
よし、と玄関へ向かうとバッキーがそっと腰に手を添えてきた。
思わず、ピク、と反応してしまう。気付かれたかな…。
嫌とかじゃなく、緊張してるが故に敏感になってると言うか…。
玄関に向かいながら、チラリとバッキーを見上げてみる。
いつものバッキーもかっこいいけど、今のバッキーも凄くかっこいい。様になっている。そんなバッキーの横にわたしは立つのに相応しいだろうか?
そっと首元に指を添えると、バッキーの目の色に似た宝石のネックレスの飾りが指先に触れた。
「階段、降りれるか?」
『え?』
「いつもと格好が違うだろ?降りにくいんだったら俺が担ぐ」
『だ、大丈夫!』
どうやらわたしのタイトなドレスとヒールを心配してくれたみたい。
どうやって担ぐ気なのか気になるところだけど、初めて会った時の家具を運んでくれたのを思い出す限り、軽々と担いでくれそうではある。
普段より少し動きが制限されはするけれど、階段も降りれないほどでもないから丁重にお断りした。