【MARVEL】This is my selfishness
第8章 8th
「おっと、忘れちゃうところだった。最後にこれね」
そう言ってケリーさんが箱を開ける。
そこから取り出したのは、あのネックレス。
「後ろ向いて」と言われたのでくるりと半回転する。
肌にひんやりとネックレスが当たる。それはまるでわたしに馴染むようにわたしの体温がネックレスにも移る。
「はい、バッチリね」
『ありがとうございます…』
「どうしたの?」
『…緊張してきました』
「パーティー?」
『それもなんですけど、バッキーに見せるのが…』
わたしは満足だけど、もしバッキーに微妙な反応をされたらどうしよう。
紳士的な彼のことだから、ストレートに「似合ってない」なんて言わないとは思うけど、言葉は言わなくても、少しくらいそう思ってるような雰囲気や仕草が表情に出るかもしれない。
そう考えると、バッキーに見てもらうのが怖くなってきた。
このドレスを着る為にブラジャーを着けていない胸元が精神的にも物理的にもスースーする気がした。
そのことを正直にケリーさんに伝えると彼女はあっけらかんと、
「その時は私が彼をぶっ飛ばすわ」
と自身の綺麗なブロンドヘアーをサラッと払いながらかっこよく言い放った。
まさかの言葉に開いた口が塞がらない。ケリーさんの口から出てくる言葉に思えなかった。
「行くわよ」
呆気に取られるわたしを先導するようにリビングへ繋がる扉の前にケリーさんが立つ。
「ほら、ちゃんと背筋伸ばして。私がメイクしてあげたんだから。今の貴女、すごく綺麗よ」
いつもの上品さもありつつ、カッコイイ笑顔で励まされた。
その言葉にメキメキと自信が育っていく気配と、それでもやはりバッキーにどういう反応されるかの不安も沸き立つ。
キィ、と小さく音を立てながらリビングと繋がっている扉が開く。
小さくひとつ呼吸をして、視線を上げると衣装合わせの時にバッキーが座っていたソファーの近くにわたしと同様、ドレスアップした彼が立っていた。
鈍く紺色に煌めくジャケットとそれに合わせた色合いのベストと黒のシャツ。足の長さを引き立てるスラックスにジャケットに合わせたような黒と紺色のグラデーションのドレスシューズ。
首元はしっかりとネクタイで締め、髪型もいつもよりきっちり固め、心做しか髭も整えられている。