【MARVEL】This is my selfishness
第8章 8th
『あ、あの人って…』
「決まってるでしょ」
視線だけで誰かを示し、それ以上は言葉を続けないケリーさんにわたしも言葉を飲み込む。
「ほら、ここ座って。メイクするわよ」
ドレッサーの前の椅子に促され、座る時にショーツが少しくい込んだ。
靴は靴擦れしないようにと選んだ、アキレスから踵部分に薄くクッション性のあるストラップ付きのヒールパンプス。
「これとこれを順番に顔全体に塗ってくれる?こっちが先ね」
トン、トン、と2つのメイク用品が置かれる。どうやら下地クリームの類のようだ。メイクに詳しくないわたしには何が何だか。
言われた通りに順番に顔に塗る。
それが終わると「終わった?じゃあ、あとは任せて」とケリーさんが言った。
そこからはケリーさんに「目を閉じて」「目を開けて」という指示をされながら、まるで魔法のように次々に出てくるコスメと着々と進めるケリーさんに身を任せた。
数十分後には鏡に今まで見た事のないわたしが映っていた。
『わあ、、、』
自然と感嘆の声が漏れる。
『すごい…わたしじゃないみたい…』
「何、厚化粧になったって言いたいの?」
ムスッとしたような声音に焦る。
『いやっ、そういう意味じゃなくて!わたしがちゃんと残ってるわたしの顔なんですけど、今までメイクが下手くそで自分に合ったメイクとかも分からなかったんですけど、このメイクはすごく自分に合ってる気がして…!』
ワタワタとしながら伝えると、堪えていたかのようにケリーさんが「ぷっ」と小さく吹き出した。
『?!』
「ふふっ、いい反応をしてくれるわね。メイクしてあげた甲斐があったわ」
スッ、と肩に手が乗った。
「これでパーティー楽しんできなさい。彼と一緒に。ハンドバッグに使った口紅と簡単なお化粧直しが出来るコスメを数種類入れとくわね」
『ありがとうございます!』
「髪は短いからワックスでまとめるだけにしとくわね。片方だけきっちり耳にかけるだけでも違うから」
そう言ってケリーさんはワックスを取り出し、わたしの短い髪を綺麗にまとめてくれた。自分でもワックスを使うことはあるけど、分け目はいつも大雑把にしているところがある為、ケリーさんがしっかりと綺麗に一本線がわかるように左右に髪を分けてくれたのを見て感動した。