【MARVEL】This is my selfishness
第7章 7th
そんな中、わたしの目に付いたぬいぐるみは大きな黒猫のぬいぐるみ。
その黒猫は目付きが悪く、光の加減で水色にも灰色にもみえる綺麗な色をしていた。
バッキーがムッてした時の顔に似てるかも。
サムさんが部屋に来た時とか、こんな顔してたなあ。
「ミア」
呼ばれて、横を見るとバッキーがいた。
「立ち止まるなら言ってくれ」
『あ、ごめん』
惹かれるままに立ち止まってしまったから、どうやらバッキーは少し先に進んでしまってわたしが後ろから着いてきてないことに気付いたようだ。
「何見てるんだ?」
バッキーがわたしがさっきまで見ていたショーウィンドウの中を見る。
…この歳になってまでぬいぐるみを見ていたなんておかしいかな…と恥ずかしさを覚えながら、少し目つきの悪いあの黒猫のぬいぐるみを指さした。
「…猫か」
『うん』
「猫が好きって言ってたもんな」
その言葉に猫好きが転じて、催眠術で猫になった(つもり)という失態を思い出す。つい昨日のことだ。日付は変わっていたから十数時間前のこと。
「買うのか?」
『ううん。ちょっと気になっただけ…帰ろ』
「その割には名残惜しそうだぞ」
バッキーの言う通り、足を進めようとしながらも目は黒猫のぬいぐるみを見たままだった。
欲しいけど値段が書いてないし、いい大人がその値段を聞きに行くのもちょっと恥ずかしい。
この歳でぬいぐるみを欲しがることもそうだけど、値段を気にせず買っちゃう!ってなれないのも恥ずかしい。
『大丈夫!帰って映画観よう』
おつまみも作らなきゃ、とバッキーの横を通り過ぎる。
バッキーもわたしとすれ違うのと同じくらいに自分もアパートへと足を向き直した。
長らく使われていないような廃れたビル。発電機が持ち込まれ、心許ない電球の明かりが時折点滅しながら男を照らす。
ラッキーだった。
奴を殺すだけではなく、奴に絶望を味わわせてやれる。
スクラップブックを作成しながら男はほくそ笑んだ。
予想外なことが起きたが、その予想外が結果として男に幸運をもたらした。
────もう少し、あの女と親密にならなくては。
「あいつがするはずない」そう思わせる必要がある。
まだだ。
まだ今はその時ではないから───────