【MARVEL】This is my selfishness
第7章 7th
ケリーさんに呼ばれてお酒を届ける前まで、アレックスが催眠術を掛けようとしていた。
『なってないよ』
可笑しくなってつい笑ってしまう。
『猫になれたら楽しそうなのに。今度はちゃんと催眠術掛けてね』
冗談まじりに笑いながら言うと、アレックスも笑いながら「そうだ、これ」とポケットから今度は小包のチョコレートを出した。
最近のわたし達の日課の物々交換だ。
「ちょうど猫の形」
ほら、と手渡された透明な包装に包まれたそれを見ると、確かに猫の顔の形をしていた。
『可愛い』
袋を開けて口に入れて、ひと噛みすると、中からトロリと何かが出てきた。
『これ中になにか入ってる?』
「少しお酒が入ってるやつだよ」
『え、お高そう…』
「いや、全然そんなことないよ!」
『ほんとに~?』
言いながらわたしも個包装のクッキーをポケットから取り出し、アレックスに渡す。「ありがとう」と言ってそれを受け取ったアレックスも袋を開けてクッキーを口に入れた。
割とこの時間が楽しみになってきている。
『ロンさん、ちょっと掃除のことでアレックスと裏に行ってきて大丈夫ですか?』
客の流れが落ち着いてきた頃、カウンターにいるロンバルドにミアが声をかける。
飲んでる間にちょくちょく聞こえてくるのを聞いているとこの新人の男の名前は【アレックス】ということが分かった。
分かった上で何というわけではないが…。
「ええ、大丈夫よ。アレックスちゃん、ミアちゃんの仕事、丁寧だからしっかり覚えてくるのよ」
「わかりました!」
ロンバルドの言葉に元気よく答えるアレックス。
…人当たりの良さそうな男だが、何か気に食わない。
二人がいなくなってからロンバルドに聞く。
「あの男とミアが何か渡し合ってるように見えたが、あれはいつもか?」
「そうみたいよ。お互い甘いものを持ち寄ってちょっと小腹を満たしているみたい。仲良くやってるわよ」
フフ、と笑うロンバルド。
…気に食わない。
「もたもたしてるとミアちゃん、とられちゃうわよ」
カウンターに腕を組むようにして前のめりになり、耳打ちしてくる。