【MARVEL】This is my selfishness
第7章 7th
ケリーというホステスに連れられてソファーに座ると、ちょうどカウンターが見える位置だった。
カウンターの端の方でミアと新しく入ったという男のバーテンダーが親しげに話しているのが分かる。
店内は薄暗いが、俺の目だと通常よりは見える。
新人が何かを取りだし、指に填めるような仕草をしたのを見て指輪だと分かった。鳩尾辺りでその指輪を、填めてない方の手で触り始めた。
そこでロンバルドがミアに酒を持っていくように指示したようで、グラスを持ったミアがこちらに近付いてくる。恐らく俺が頼んだ酒だろう。
『ごゆっくりどうぞ』
小さく微笑みかけるミアの表情は、どこかぎこちなかった。
グラスを置くと、また元の場所へ戻って行く。
そして先程と同じように新人の男とまるで見つめ合うかのように向かい合った。
その全てをジッと見つめる。
──────見つめるだけでミアが俺に気付けばいいのに。
俺がどう想ってるか伝わればいいのに。
「───ねえ、聞いてる?」
右肩に手を添えられた。
「…ああ」
「嘘。そんなにあの子が気になる?」
その言葉にゆっくりと女に視線を合わせる。
ミアと違って派手ながらも上品さを纏った女だ。
かつての俺だったら選んでいたであろう女。
「あの新人、素性はハッキリしているのか?」
女がクスクスと笑う。
「ここには素性がハッキリしない奴ばかりよ。オーナーであり店長であるロンバルドが見極めた上で雇ってるの。一応履歴書は皆あるけどね」
グラスを手に取り、酒を1口含む。
「そりゃ随分な雇用方法だな」
「それで助かる人だっているのよ」
影をチラつかせるような物言いをする。きっとこの女自身、何かしらを抱えているのだろうが、今のご時世、誰だって何かしらを抱えている。一人一人の話を聞いてやるほど俺は善人でもなければ、立派な人間でもない。
「付き合うのはこの1杯分だけだ」
「あら、短いのね。せめて1本分にしてもらえないかしら?」
グラスの縁をなぞる女に溜息をつきながら了承した。
どうせ酔わない。