第3章 03
殴り続けた拳が、時々痛みを感じなくなる。殴られ続けていると、感覚が麻痺して痛みが無くなったように思えることがある。
喧嘩ばっかりしてるとよくある事だ。
帰宅して最初に聞いたのは、重い音だった。この時間、弥月は料理をしているはずだ。
リビングに迎えば、すぐ横のキッチンで血を流したままぼーっとしている弥月が目に入った。指は取れていないが、傷が深いようだ。
後ろから抱きしめるように手を取れば、とても冷たかった。血を止めてやって、そこでようやく痛みを感じたようだ。
涙を流す弥月を抱きしめた。ダリィことは嫌いなのに。めんどくさいことは嫌いなはずなのに。どうしてもこの女のことになると、庇護するように体や思考が働いてしまう。
弥月の叔父のことを調べてわかったことがあった。
弥月の両親が死んだ事故は男に仕組まれたものだった。狙いは両親の遺産。どうやら夫の方の父親から譲り受けた財産があったらしい。それも使い果たすって相当だな。
もっと確証が得られた時、この話を弥月にもするつもりだった。こいつの中の憎悪がどれほど膨れ上がるのか、それが楽しみで仕方がない。
「飽きさせんなよォ、弥月」