第2章 02
細い体。こいつの体に、肉付きのいい場所など無かった。足で弥月を囲い、手首や腰などを撫で回す。首元の包帯をとれば、締められたとわかる痣が残っていた。十中八九、叔父と呼ばれた男のものだろう。
初めてこいつを認識したのは4月の中旬。いつも煙草を吸っていた場所に、女に囲まれている姿だった。派手さの欠けらも無い地味な女。諦めているのか、毎日のようにいじめられても抵抗は一切見せなかった。
つまらないと思った。下品な女らしく、髪の引っ張り合いでもすればいいと思っていた。しかし、ある日だ。弥月の目に、激しい怒りと殺意が現れていることに気がついた。
ゾクゾクとした。久しぶりにここまで高揚した。面白くなって声をかけた。
あの表情に似合わず、女の声は穏やかで優しかった。正直、心地いい。
その声をずっと聞いていたくて、家まで送った。ボロい家に入ったあと、ものを投げる音と男の怒鳴り声が聞こえた。
部屋には乗り込まなかった。そこまでしてやる理由がなかったからだ。
しかし、家に帰ってから謎の罪悪感に襲われた。無視して帰ったことを後悔した。
そして、今に至る。
今朝はいつも以上に目元の隈が酷かった。眠れていないのか、足取りは頼りない。無理矢理バイクに乗せ、集会場まで連れてきた。普段は人が寄り付かない不良の溜まり場。
弥月が穏やかに眠れる場所がここしか思いつかなかった。
軽い体重を俺の体に預けながら、眠る弥月の髪に顔を埋めた。柔らかな香りが鼻の奥を擽った。
「困ったなぁ。俺は、お前が欲しいみたいだ」