第1章 1章―夏祭り―
少しだがたわいもない会話をすることができた。
勉強熱心なさやかに宮殿の図書室の利用を特別に許可しておいてよかったと改めて思った。
―――コッコッコッ
「さやか!」
眉間にシワを寄せたカイラがこちらに向かってきた。
『あ、カイラ…』
すごく怒ってる…
「なかなか戻らないから探しにきた…エンマか」
「よ!カイラ。さやか、ひき止めて悪かった。俺はもう仕事おわったからあとはゆっくりするぜ」
「…あぁ」
立ち去るエンマを横目で追うカイラ。
『またサボってたらぬらりひょん様に報告するからね。』
少し意地悪そうに笑うさやか。
「う、うるさいな!// ぬらりとさやかが側近だったら俺は過労死確定だぜ…ったく。
じゃあ…またな!」
『ふふふ、冗談。またね、エンマ。』
エンマの後ろ姿を見送る2人。
『カイラ、ごめん。念で位置を伝えておけばよかったね。つい集中してしまって…』
更に立ち話まで…
念でやり取りが可能なんて、妖怪になってとても便利と感じた1つだった。しかもこの宮殿は広い。本当によく見つけてくれたと驚きしかない。
「いや……ここの宮殿は広い。迷子になったのかと思ったぞ」
少し眉尻が下がった表情のカイラ。
『心配かけてごめんね』
「稽古もしたし、今日は早めに帰って休もう」
『そうだね。この巻物を戻したら帰るよ』
「あぁ。今日も途中まで送ろう」
『ちょっと。私だって妖術も剣術も結構使えるんだから…いつまでもカイラに途中まで送ってもらわなくても大丈夫だよ』
そこまでカイラに迷惑なんてかけられない。
さやかが珍しく頬を膨らませているのを見て、
「フッ」
『あ、鼻で笑う…』
「違う。ただ…」
『?』
首をかしげるさやか。
「さやかが稽古で私に1度でも勝てたら考えよう」
『が、頑張ります…//』
カイラはいつも険しい顔が多い。しかし、たまにこうして見せる優しい微笑みにはドキッとさせられる。剣術も凄腕、勉学もいつも上位にいる上にかっこいい。
学校でたまに黄色い声が上がるが、自分へのだと気づいてないのか興味がないというべきか…。
「真に受けるな。ただ心配なだけだ」
『そっか…。でも、いつもありがとう』
さやかは優しく微笑み返した。