第1章 1章―夏祭り―
「さ、犬まろ、猫きよも待っています。我々も帰りましょう」
「ああ、ぬらりも土産あるからな。皆で食べようぜ!」
「お心遣いありがとうございます」
「うんがい、宮殿まで頼む」
ぺろ〜ん!
こうしてエンマ達も宮殿へと帰っていった。
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《さやかの家》
浴衣を脱ぐのがとても惜しく感じていたさやか。
しかし、シワになる方が申し訳ないと思い帯を解いていった。
部屋を見渡し、浴衣をかけれそうな所へかけしばらく見つめていた。
浴衣を選んでくれていた時の真面目な顔
りんご飴を見つけたときの嬉しそうな顔
手を離す時の寂しそうな顔
色んな表情のエンマを見ることができた。
さっきまでこの手を握ってくれていたなんて
全てが夢のようだった。
なぜこんなにも惹かれるのだろう…。
人間だった頃の初恋の相手に似ているからだろうか。
エンマを初めて見たときからあの人に面影が似ていてとても驚いたのを覚えている。
妖怪になればまたいつか会えるような気がしたのだが、見つけることができなかった。
私が死んでから人間界はかなりの年月が経っている。恐らくもう彼も人間界には存在していない頃…
『イツキ…』
さやかの声は静かに部屋に溶け込んだ。
ー第1話 完ー