第1章 1章―夏祭り―
ふと、ぬらりひょん様の顔が頭に浮かんだ。
護衛もロクにできず、大王様にお姫様抱っこまでさせて走らせておいて
浴衣まで買わせてしまっただと?
そんなお前が側近などになれるとでも思っているのか!
その後もクドクド言われる自分の姿を想像するのは容易かった。
側近になる夢が打ち砕かれそう…。
すると、
「大丈夫だ。全て俺がした事だからな、ぬらりにはクドクド言わせねーよ」
どうやら全てお見通しのようだ。
「大王様、迎えに参りました」
背後から聞き慣れた声…。
恐る恐る振り返るとそこには人間に化けたぬらりひょんがいた。
「ぬらり、今日はサンキューな」
「満喫できたようで何よりです」
満足気なエンマを見るぬらりひょんの表情はいつもより柔らかかった。
しかしそれも束の間、
一気にいつもの表情に戻りさやかの方をみた。
「さやかよ、ご苦労であった」
『はい…』
「しかし、大王様に抱えられるとは…まだまだ甘い!」
『はい!』
やはり見られていたのですね…。
先ほど浮かんだシチュエーションに近い展開。
「甘いが…。ジェリーにいち早く気付き、大王様を引き寄せたスピード、判断力はとても良かった。
日々の努力の賜物だろう。これからも稽古は怠らぬように!」
『は、はい!』
思わぬ言葉に身が引き締まる。
日々の努力…ということはぬらりひょん様も私の噂を…。
「ぬらり、悪いのは全て俺だ。」
「は!」
「今日は見張りしてくれてサンキューな。明日からもまた仕事頑張るからさ、宜しく頼むぜ!」
「御意!大王様」
「さやか、ぬらりが厳しい事言って悪りぃ。許してくれ」
『大丈夫。私ももっと頑張るね』