第3章 家族の絆ー後編ー
桜の言葉に杏寿郎は大きく目を見開いた。
「…思い出した、のか?」
握っている手に力を込めて聞いてくる杏寿郎。その手は若干震えている。
桜は困ったように笑って答えた。
「思い出したよ。…全部」
「……っ!!」
「約束、守れなくてごめんね」
「…いいんだ。それに、君のおかげで竈門少年も…不死川も暗闇に落ちることはなかったと言っていた」
静かに語る杏寿郎の言葉に桜は耳を傾ける。
「君は…死して尚、隊士たちの光だったんだ」
正直、自分がいなくなった後のことは分からない。
「竈門少年は俺の刀の鍔を付けて君の仇を取った。猪頭少年は君との約束を果たした。黄色い少年も、君の速さに追いつけるよう日々努力していた。みんなの心には確かに桜、君が存在していたんだ」
杏寿郎の話を聞く限り、自分は人の役に立つことが出来たのだろう。
「竈門少女は人間に戻ることができた」
桜の瞳から一雫の涙が流れ落ちる。
「君は本当にすごいな。君が築いた絆が多くの人たちに光を灯したんだ」
出来ることなら、みんなと一緒に鬼がいなくなった瞬間を喜び合いたかった。
けれど、柱は実弥くんと冨岡さん以外生き残らなかったと杏寿郎は言った。きっと壮絶な戦いだったのだろう。
そこに自分が参戦できなかったことは悔やまれるけれど、それももう過去の話。
今は鬼のいないこの平和な世界で生きている。
あの時鬼殺隊だった人たちは、生まれ変わって“今”を生きているのだ。
前世の記憶を思い出した今だからこそ分かること。それは偶然か必然かは分からないが、みんなキメツ学園に集まっている。
柱も平隊士も、そして鬼も。
「私だけ、何もかも忘れてしまっていてごめんね」
杏寿郎は人差し指でそっと桜の涙を拭う。
「ちゃんと思い出してくれただろう?それだけで十分だ」
昔、母上は言っていた。「何も知らない方が普通なのだ」と。
だから、身に覚えのないことを言われても気にしなくていいし、少しずつ相手のことを知っていけばいいとそう教えてくれた。
「…杏寿郎」
「何だ?」
「また杏寿郎と双子になれて嬉しい」
“輪廻転生というものが本当にあるのなら…
私はまた杏寿郎の双子として生まれてきたい”
「…俺もだ」
「杏寿郎、大好き」