第4章 ご都合血気術
時間が流れるのは早いもので、気づけばあっという間に夜になっていた。
杏寿郎は桜の子守という役目があるため、今晩は鬼殺隊の任務は入っていない。警備区域も事情を聞いた不死川と甘露寺が見回ってくれるとのことだったので、今回は二人に甘えることにしたのだ。
「夜ご飯も美味しかったし、お風呂も気持ち良かったねっ!」
大きいお風呂って初めてだったから楽しかった、と嬉しそうに話す桜を見て微笑ましい気持ちになる。
「ねえ杏寿郎お兄ちゃん、一緒のお布団で寝てもいい?」
「!!」
「…ダメ?いつもはお父さんとお母さんが一緒だから…」
不安そうな瞳をしながら問う桜。まだまだ一人では寂しい時期なのだろう。別にやましい気持ちがあるわけでもないため、「いいぞ!」と返事はしたが、本当にいいのだろうか。
「杏寿郎お兄ちゃん?」
「……うむ!」
邪を払うように自分の頬をパンッと叩いたあと杏寿郎は布団に入り、桜が入れるように自分の隣をポンポンと叩く。
「おいで、桜」
その言葉を合図に、桜は頬を赤く染めて嬉しそうに杏寿郎の布団の中に入った。
「杏寿郎お兄ちゃんあったかいね」
「そうか、それは良かった!」
杏寿郎は桜の胸付近をポンポンと優しく叩きながら目を閉じる。眠気を誘う温かなぬくもりにすぐに寝れるかなと思いきや、これがまた中々眠れない。どうしたものかと考えていると、小さな声が聞こえてきた。
「あのね、杏寿郎お兄ちゃん。今日は一緒にいてくれてありがとう。千寿郎お兄ちゃんも好きだけど、杏寿郎お兄ちゃんも大好き」
「…俺も好きだぞ!」
「ほんと?嬉しいなぁ。じゃあ桜がもっと大きくなったら、その時は杏寿郎お兄ちゃんのお嫁さんにしてね。…約束だよ!」
「ん"ん"!!!」と大きな声で叫びそうになったが、告白された後満足したかのように寝てしまったため、何とか思いとどまった。そして眠る桜の額にそっと口付ける。
「…君はもう既に俺のお嫁さんなんだかな」
困ったように笑いながら杏寿郎もそのまま眠りについた。
翌朝桜の血気術は解けたが、その間の記憶がなく、目の前に杏寿郎の寝顔があったため悲鳴をあげてこの件は幕を閉じた。