第3章 家族の絆ー後編ー
綺麗に手入れされている墓石の前に、花を添えて手を合わせる男性がいた。
「…来るのが遅くなって悪かったなァ」
桜がいなくなってから、どのくらいの月日が流れただろうか。
鎹鴉から訃報の知らせを聞いた時は信じられなかった。信じたくなくて、柄にもなく桜の姿を探した。
でもお前はどこにもいなかった。それでも認めたくなくて、ここに来ることが出来なかった。
「好きだったんだ、お前のこと」
その言葉を口に出すことはなかったが。
宇髄がお前に好意を持っていることも知っていた。「嫁にならないか」と言われているのも知っていた。
軽く断っているところを見てとても安堵したんだ。
鬼殺隊にいる以上、何が起こるかなんて分からねェ。だから気持ちを伝えるのは鬼がいなくなってからだと決めていた。
結果として、本人に直接伝えることはできなかったが。
「……なァ、空の向こうからちゃんと見てるか?鬼のいない時代になったんだぞ」
無惨との戦いの後、俺はずっと眠ってた。
暗闇の中で出会ったのは、皆のところには行けないと泣いていたお袋だった。
「俺が一緒に地獄に行ってやる」と言ったら、親父が現れて邪魔された。
親父が「あそこに大切な人がいるぞ」と指差した先には、桜……お前がいたんだ。
困ったように笑って、“実弥くんはこっちだよ”って光の先へと導いてくれた。
お前と会話することは結局出来なかったけど、俺の手首を優しく掴んだその手は陽だまりのように温かかったんだァ。
“またね、実弥くん”
目を閉じれば、あの時の桜の笑顔が脳裏に浮かぶ。
「そっちには胡蝶たちもいるし賑やかなんだろうなァ」
殆どの柱がそっちに行っちまった。生き残ったのは俺と冨岡だけだ。
「……あと四年もしたら俺もそっちに行くからなァ」
俺は死後の世界でもお前に会いたい。
そして叶うことなら、生まれ変わってもまたお前と出会いたい。
「俺は何度でも桜を好きになる」
例えお前が忘れてしまっても、俺は絶対に忘れない。
だから、もしも平和な時代で巡り会えたその時は、この想いをお前に伝えると約束しよう。
「…桜」
“愛してる”
この五文字は直接伝えたいから、いつかその日が来るまで待っててくれなァ。