第3章 家族の絆ー後編ー
この世界で唯一の鬼である愈史郎は、宇髄家や煉獄家が炭治郎の部屋を訪れているとき目掛けてやってきた。
炭治郎のお見舞いに来たと言うのもあるが、もう一つ、煉獄家の人たちに会ってみたかったのだ。
「愈史郎さん!」
来てくれたんですね、と嬉しそうに笑う炭治郎を見て、「ああ…、こいつは全然変わらないな」と思った。
「お館様から話は聞いていたが、君が愈史郎殿か!」
腕を組んで大きな声でハキハキと話してくるのがアイツの弟、煉獄杏寿郎らしい。その横に控えめに立っているのが千寿郎だと炭治郎に紹介してもらった。
その後ろにはこれまた同じ顔の中年男性が一人。何なんだ煉獄家って。血が濃すぎるのか?と若干引いた。
アイツの弟だと言うからもっと落ち着いた感じの奴らかと思ったが、予想とは真逆で派手だった。
だが愈史郎はそれなりに生きているし、珠世への愛が強すぎて誰も気付かなかったが、人を見る目はある。
「…似ているな、あいつに」
ポツリと小さく呟いた言葉を杏寿郎は聞き逃さなかった。
「あいつ、とは?」
大きな目を見開いて愈史郎をじっと見つめる。その瞳の奥に見える炎はまさしくあいつと一緒だ。
愈史郎はフッと笑い杏寿郎の問いに答えた。
「桜だ。お前は桜に似ている」
愈史郎から桜の名前が出てくるとは思わず、煉獄家三人は大きく息を呑んだ。
「…あの!姉上をご存知なんですか?」
話を聞きたい、と言う雰囲気を漂わせながら声をかけてきたのはまだ幼さの残る千寿郎だ。
「…桜とは以前浅草であった」
昔のことではないのにとても懐かしいなと思いながら、愈史郎はその時のことを話した。
「約束してたんだ、あいつと」
「約束、ですか?」
思い出話を終えた後、ポツリと呟いた愈史郎の声を千寿郎が拾う。
「いつか、弟を紹介してくれると約束した」
「……!」
杏寿郎と千寿郎は大きく目を見開いた。
「だからお前らがいる時にここへ来たんだ。アイツの弟と会ってみたくて」
「そうか、それは光栄だな。俺たちも君と会えて良かった!」
杏寿郎のニコッと笑った姿は、どこか桜と似ていた。
お前は二つの約束を破ったんだ。
だから…もし遠い未来で出会うことができたなら、その時は約束を果たしてほしい。