第3章 家族の絆ー後編ー
気付いたら暗闇の中にいて、鬼舞辻無惨に自分のあとを継いで最強の鬼になってくれと言われた。
冗談じゃない。誰がなるものか。
でも、地上では鬼化して人を襲おうとしている自分がいて、どうすればいいのか正直分からなかった。
疲れたんだ、本当に。
ゆっくり休ませてほしいのに、自分の意思とは反対に地上の自分は言うことを聞いてくれない。
お願いだから…このままもう休ませて。
“このままでいいの?”
……いいんだ。もう、疲れたから。
“……本当に?”
俺、頑張ったんだ。だから少し…休みたい。
「お兄ちゃん……!」
……禰󠄀豆子?
「ごめんね、お兄ちゃん。いつもお兄ちゃんばかり辛い目に遭って…何も分かってなくてごめんね」
違うんだ。禰󠄀豆子がいたから俺は頑張れたんだ。
「お兄ちゃん、お家に帰ろう」
……うん。俺も家に帰りたい。本当は帰りたいんだ、禰󠄀豆子。
まるで願いを叶えるかのように炭治郎を暖かな風が包み込む。そして無惨から守るように次々と見知った腕が現れた。
“炭治郎くん”
先程から話しかけてくれていた声が聞き覚えのある声だと気付き、ハッと上を見上げる。
「あ……」
そこには隊服姿の桜さんがいた。
“頑張ったね、炭治郎くん。禰󠄀豆子ちゃんの声、聞こえた?”
「聞こえ、ました」
炭治郎の返事に、ニッコリと微笑む桜。
“あと少しだけ頑張って。帰るんでしょう?”
「……はい、帰りたいです」
炭治郎の言葉を合図に、桜は無惨や上弦の鬼との戦いで亡くなったみんなのチカラを借りて炭治郎の腕を引っ張り、光の方へと導いた。
“炭治郎くん、手を伸ばして”
ゆっくりと手を伸ばす先に見えるのは眩しい光と、禰󠄀豆子を筆頭に善逸や伊之助、カナヲ、義勇さんなど大切な人たちが差し伸ばしている腕だった。
「炭治郎待て!待ってくれ、頼む!!」
俺の意志を、思いをお前が継いでくれ!と叫ぶ無惨など気にもとめず、差し出された腕に手を伸ばし、光の方へと引き上げられた。
引き上げられる直前に桜さんの方を見ると、とても優しい表情で微笑んでいた。
“またね、炭治郎くん”