第3章 家族の絆ー後編ー
辺り一面に広がる暗闇。
歩く、というより飛んでいる…と言う方がしっくりくるこの空間に、上弦の弐に取り込まれたしのぶはいた。
今しのぶが向かうべきは、この先の温かな光が見える場所なのだろう。そこへ行けない理由、それは上弦の弐がどうなったかが気になるからだ。
伊之助はカナヲと合流することが出来ただろうか。カナヲは無事アイツを倒すことができただろうか。
しのぶと桜が託した、あの子たちがどうか無事であってほしい。そんな願いから、この生と死の狭間と言うべき空間に留まっていた。
「しのぶちゃーん!」
「……!」
耳障りな声で自分の名を呼ぶのは紛れもなく上弦の弐だった。ああ…この空間に、しかも頸だけな状態でいるということは、カナヲは無事この男の頸を斬ってくれたんだな、と安堵する。
「良かったです。これで私も安心して成仏できます」
しのぶのそんな言葉など気に留めることもなく、上弦の弐はウキウキと話しかける。
「ねえしのぶちゃん、俺と一緒に地獄へ行かない?」
この言葉には流石のしのぶも「はい?」っと額にピキピキと青筋を立てた。
その時、上弦の弐の頭が誰かの手によってガシッと掴まれる。
「あなた一人で地獄に行って下さいね」
「……!」
頭を掴んだのは、もう会うことができないと思っていた桜だった。
「桜……!」
「あれぇ?君も鬼殺隊の子??」
ここにいるってことは君も死んでるんだね!と明るく言ってくる上弦の弐に苛立ちを覚える。
「あ、もしかして君が猗窩座殿に殺された子?」
「…しのぶ、何かこいつムカつくんだけど」
「同感です」
互いに顔を見合わせたあと、二人は同時に頷き、ブンッと頭を投げ飛ばした。
「とっととくたばれ、クソ野郎」
「桜、その手ちゃんと消毒して下さいね」
「…そうする」
お互いに暫く沈黙していると、しのぶが口を開いた。
「…勝手にいなくなって、酷いですよ」
「うん、ごめん」
困ったように笑う桜を見てしのぶも困ったようにつられて笑う。
「そろそろ行きましょう」
だが桜は動こうとしない。
「桜?」
「…ごめんね、私はもう少しここにいるわ」
「……そうですか」
なぜ、とは敢えて聞かない。
「しのぶ、“またね”」
「……!はい、また」