第3章 家族の絆ー後編ー
君がいなくなってからどのくらいの月日が経っただろうか。
時間とは残酷なもので、決して止まってはくれない。しかし、時間が解決してくれることがあるのもまた事実。
塞ぎ込んでいた千寿郎も、竈門少年との手紙のやり取りで大分明るさを取り戻している。
父上も竈門少年が煉獄家を訪れた日を境に、酒に入り浸ることは無くなった。昔のような父上に戻りつつある。
君が無限列車の任務前に煉獄家へ足を運んでいたことは父上と千寿郎から聞いた。
……君が、家族の壊れた絆を修復するきっかけを作ってくれたんだ。
だが、そこには桜…、君の姿は無い。それがとても残念で、そして寂しく思う。
杏寿郎は煉獄家の庭から空を見上げる。
今日も雲ひとつない快晴だ。
「煉獄さーん」
「うむ、待っていたぞ。竈門少年、黄色い少年、猪頭少年!」
「お、おはよ…う」
「惜しいな。もう“こんにちは”の時間だ、竈門少女」
「こ、こんに…ちは」
禰󠄀豆子の言葉に杏寿郎は「よく出来ました」と褒めるように頭を撫でてあげる。
運が良いのか悪いのか、炭治郎は新しい刀を打ってもらうために刀鍛冶の里を訪れた際、襲撃してきた上弦の鬼二体と戦ったのだ。
上弦の鬼を時透や甘露寺と共に倒したことはとても喜ばしい。
そして喜ばしいことがもうひとつ。禰󠄀豆子が太陽を克服したのだ。
だが、その日を境に鬼がピタリと出没しなくなった。まさに今は嵐の前の静けさというやつなのだろう。
岩柱、悲鳴嶼行冥の提案で隊士たちに稽古をつけるため、現在は柱稽古の真っ只中である。
杏寿郎は炎柱を降りたが、元音柱の宇髄天元と共に柱稽古の稽古をつける側に参加していた。
「聞いたぞ、竈門少年。不死川とやり合ったそうだな」
「…はい。すみません」
「君は君の正義のために不死川に対抗したのだろう?ならば俺からは何も言うまい」
炭治郎の頭に手をポンっと乗せる。
「…最終決戦まで恐らくもう時間がない。今できることをしよう」
杏寿郎のニコッと笑った表情は年相応のもので、元々心優しい青年ではあったが、無限列車の時よりも雰囲気が柔らかくなったように感じられた。
「君たちは強くなった。きっと桜も喜んでいることだろう」
君を想って訓練に励んだ彼らに何かあった時は、どうか君の光で出口へと導いてあげてほしい。