第3章 家族の絆ー後編ー
「母上っ!」
泣きながらギュッと抱きつく娘に、困ったように笑った瑠火はそっと抱きしめる。
「……今までよく頑張りましたね」
頭を撫でながら優しい声色で話す瑠火。
懐かしいなぁ……。昔はよくこうやって頭を撫でてもらった。
大きくなるにつれて厳しくなっていった母。でもそれは、桜や杏寿郎の為だという事を知っている。名家である煉獄家の名に恥じぬように厳しく育ててくれたのだ。
でも、まだ幼かった桜は時折挫けそうになって泣きそうになる事だってあった。そんな時、瑠火は必ずといっていいほど桜の気持ちを察して抱きしめてくれた。
私たち双子は仲が良い。でも嫉妬する事だってある。何故なら杏寿郎は、基本何でも卒なくこなすのだ。
厳しくされても決して涙を見せることはない。
そして誰よりも努力家だった。
そんな杏寿郎に、母は“弱きものを守るのは強く生まれたものの責務”だと伝えた。
もう長くはないと後を託された杏寿郎は、母に抱きしめられた時涙が出そうになっていた。
この時、漸く分かったのだ。杏寿郎もずっと我慢していたのだと。
その日を境に、杏寿郎は今以上に訓練に励んでいった。彼の強さは努力の塊なのだ。
そんな杏寿郎に私は何ができるのだろう………。
「桜」
「はい、母上」
母の部屋に二人だけ。父や杏寿郎、千寿郎は庭で稽古をしていていない。女同士の秘密の話。
瑠火と桜の最後の約束。
「杏寿郎は男で桜は女の子です。きっと杏寿郎はあなたを守ってくれるでしょう。けれど、あの子は弱き者を助けると言う大きな責務もあります。……桜」
「はい母上」
「これは母と桜との約束です。守るものが多い杏寿郎にも、守ってもらう権利はあるのです。だから…一度だけでいい、一度だけでいいからあの子を守ってあげてね。これが、姉であるあなたの責務です」
いいですね?と真剣な表情で言う瑠火の言葉に、「はい」と大きく頷いた。
「そろそろ目覚めた方が良いでしょう」
母の言葉で景色が変わる。
暗闇の空間に幾千もの輝く光。まるで宇宙のようだ。
幼かった姿から隊服姿に戻っている。
「成長したあなたに出会えて良かった」
優しく微笑んだ瑠火はそのまま闇へと消えていった。