第3章 家族の絆ー後編ー
「うまい!うまい!うまい!」
「………………………………」
「あの…「うまい!」…煉獄さ「うまい!」……」
「うまい!!」
「いや、それはもう…分かりましたから」
列車の中で恥ずかしいほど“うまい”を連呼しながら食べ続ける杏寿郎を軽く無視して窓の外を眺めていると、見知った三人組がやってきた。
「いつものことだから気にしなくていいよ、炭治郎くん」
「桜さん!煉獄さんと一緒だったんですね、何処にいるのかと探しました」
「桜さぁぁあん!会いたかったよぉぉぉお!」
炭治郎との会話の間に割り込んできた善逸が、両手を広げて桜に飛びつこうとした時だった。
「グエッ!」
善逸からカエルの鳴き声のような声が聞こえた。
何故か。それは杏寿郎が善逸の羽織と隊服の首の部分を反射的に掴んで、抱きつくのを阻止したからだ。勢いが良すぎて首が締まる形となった。
「黄色い少年!桜に抱きつこうなど言語道断だ!!」
大きく見開いた目で善逸を見る姿は、正しく蛇に睨まれた蛙のようだ。善逸は「ひっ!」と声をあげて少し後ずさった。
「何?!何なの何なの?!アンタら二人もしかして付き合ってるのぉぉぉお?!」
そんなの嫌ぁァア!と杏寿郎とは違った形で叫ぶ善逸に桜は頭を抱えた。周りに一般人がいるのに恥ずかしすぎる。
「うむ、黄色い少年は何か勘違いをしているようだな!桜の苗字を知っているか?」
「苗字ぃ…?」
「確か“煉獄”だったような…」
聞いたっけ?と首を傾げる善逸に炭治郎が思い出したように答えた。
「はあ?煉獄ぅぅう?!何なの何なのぉ!もしかして夫婦?夫婦ですか?!桜さん結婚してたの?!」
果てしなく勘違いをしている善逸。この状態で何かを言ったところで妄想は止まらなさそうだ。
「うん、もういいや。じゃあ夫婦ってことにしといて」
「む!桜、面倒臭がらずに真実を教えてあげるべきだ!」
「真実ぅ?!真実って何!夫婦以上の関係ってこと?!」
「何故そうなる!!」
そもそも夫婦以上の関係って何なんだ、と真剣に聞く杏寿郎に眩暈がしそうだ。これ以上変な妄想を広げないでほしい。
善逸にゲンコツを食らわした後に双子だと伝えて、めくるめくる妄想は幕を閉じた。