第3章 家族の絆ー後編ー
「あの!」
鬼の情報を集め、無限列車に乗り込むことを決めた桜と杏寿郎は、弁当売りの少女と老婆に声をかけられた。
弁当売りの二人は、昨晩鬼の情報収集をしている時に出会い、切り裂き魔の鬼から助けた人たちだ。
はじめは警戒されていて、声をかけたら杏寿郎の顔にあんぱんを投げつけた勇敢な少女はとても優しい子だった。…見事に顔面に直撃するとは思わなかったが。
そして偶然にも少女のお婆さんは、二十年前父に鬼から救ってもらっていたそうだ。世間は広いようで狭く、身近なところで繋がっているのだと感じた。
「やあ、弁当屋さん!」
「昨日はありがとうございました。あの、これ貰ってください」
スッと差し出されたのは、食べ損ねていた牛鍋弁当だ。
「おお、これは有難い!実は昨日食べ損ねてな」
目を輝かせてウキウキとした表情の杏寿郎はどこからどう見ても年相応の青年だ。
「貰ってしまっても良いのでしょうか」
「はい、貰ってください!ほんの気持ちなんです」
「私たちにはこれくらいしか出来ませんから」
二人がそう言うのであれば、と有り難くお弁当を二つ貰うことにした。そして残りの弁当は杏寿郎が全部買っていた。
「お気を付けて」
「桜さん、また駅に立ち寄った時には声をかけて下さいね」
「ええ、今度はゆっくりお話ししましょうね」
そう言って桜と杏寿郎は駅の中へと入っていった。
「男の人の方はちょっと変わってるけど優しい人たちだったね、おばあちゃん」
「そうだね。…鬼狩りの人たちは命懸けで戦っているんだよ。私たちも私たちの出来ることをしようね」
「…うん」
人混みの中へと消えていく後ろ姿を眺めて、少し不安になった。今度ゆっくりお話ししよう、と言ったその言葉は二度と訪れないようなそんな予感がしたのだ。
大丈夫、だよね。
二人はとても強かった。殺されそうになっていた自分をすごい速さで助けてくれて、あっという間に鬼を退治してくれた。
眩しい太陽のような人と、静かに輝いてるお月様のような人。
どうか二人が無事でありますように。