第3章 家族の絆ー後編ー
今桜は駅の近くにひっそりと建っている蕎麦屋の前にいる。鎹鴉に杏寿郎がいる場所まで案内してもらったのだ。
二階建てじゃないよね、と確認してしまったのは仕方がないと思う。ふう、と一呼吸してからガラッと引き戸を開けて中へ入った。
「うまい!!」
…………………………………。
「うまい!うまい!」
…………………………………。
「うまいっ!!」
…………………………………。
え、アレに声かけないといけないの?毎度の事ながら恥ずかしいんだけど、なんて考えていたら後ろから声をかけられた。
「…光、柱?」
振り向くとそこには、炭治郎をもう少し大人にしたような好青年が立っている。
「どちら様?」
「あ、すみません。自分は今、炎柱と任務をしている者です。昨晩助けた女性の事と鬼のことについて炎柱にご報告に来ました」
「そうなの?……杏寿郎はあそこにいるからどうぞ」
デカい声で「うまい」を連呼している炎柱、煉獄杏寿郎。正直声をかけにくいが仕方ない、と意を決して青年は声をかけた。そしてその後に桜も続く。
話を聞く限り、昨晩助けた女性は怪我を負ったものの傷跡が残ることはないらしい。
「親父さん!二人にも蕎麦を。そして俺ももう一杯いただこう」
「良いんですか?」
「え、私も?」
「勿論だ。そして桜、君も一緒に食べよう」
先ほどおにぎりを食べたのだが…まあいっか、と杏寿郎の隣に座った。クソデカい声で「うまい」と耳元で叫ばれるのは嫌だったので出来れば前に座りたかったが、青年が座ってしまったので仕方がない。
「あんた、良い食いっぷりだな。そしてそちらの嬢さんはあんたのコレかい?」
綺麗な嬢さんだな、と小指を見せて聞いてくる店主。気難しそうな人なのかと思ったが、案外そうでもないらしい。
「む?!残念ながら違うな!俺の双子の姉だ」
「そうなのかい?お似合いだと思ったんだがな」
店主はフッと笑って、頼んだ蕎麦を作り始めた。
「お似合い、ね。ねぇ杏寿郎、今度二人で逢瀬しよっか」
「ブフッ!」
桜の言葉に、飲みかけていたお茶を一気に噴き出した。
「…大丈夫?」
ゲホゲホとムセている杏寿郎に声をかける。
「すまない、大丈夫だ!」
うむ、この任務が終わったら逢瀬しよう!と笑ったその顔が太陽のように眩しかった。