第1章 家族の絆ー前編ー
「姉上、このさつま芋のお饅頭美味しいですね!」
「そう「わっしょい!」…ね」
「これは何処で買われたお饅頭なのですか?」
「最近でき「わっしょい!!」た……」
「…………………………」
「……あの、姉、う…ぇ」
お饅頭を一口食べて目をキラキラさせた千寿郎が桜に話しかけているのだが、話しかける声がどんどん小さくなっていく。
理由は一つしかない。
「わっしょい!!」
さつま芋を食べると何故か「わっしょい」と言う片割れ。
そう、原因はコイツだ。私の可愛い弟、千寿郎が話しかけてくれて、それに応えようとするたびにクソデカボイスで「わっしょい!」と叫ぶこの男、煉獄杏寿郎が原因だ。勿論、双子だからと言って私は「わっしょい」などと絶対に叫ばないが。
言葉を遮られ、桜の額には青筋がピキピキと浮かぶ。そう、遮られる度に青筋が増えていく。それを見た千寿郎は顔を青くして声がどんどん小さくなっていくのだ。
あれ、もしかして私が原因?なんて思うも、そもそも杏寿郎が言葉を遮らなければいいだけの話で、やはり私は悪くない。
***
三人で一緒にいる時間、この時間が一番好きだ。
勿論杏寿郎と共に訓練する時間も好きなのだが、三人で仲良く縁側でおやつを食べながら、最近あったこと、訓練のこと、甘味のこと、ご近所さんのことなど色々なお話をする、この時間が大好きで大切にしている。
私たち三人は本当に仲の良い姉弟だと思う。喧嘩だってするけれど、すぐに仲直りもする。
昔は姉弟だけでなく家族みんな仲が良かったが、母が亡くなってからは父は酒に入り浸るようになり、段々優しい父ではなくなっていった。顔を合わせれば小言を言われる。時には酒瓶を投げられることだってあるのだ。
そんな父を見て、小さく震えるまだ幼い千寿郎を杏寿郎と二人で守ってきた。
堅く結ばれていた家族の絆に、見えないところで少しずつ亀裂が生じていく。これからも変わることなくずっと仲の良い家族で、姉弟でいるとそう思っていた。
でもヒビが入った家族の絆は、そう簡単には直らないし修復できるものではない。放置すれば劣化して壊れてしまう。
そして今、パリン…と亀裂の入った家族の絆が音を立てて崩れようとしていた。