第2章 家族の絆ー中編ー
今、桜は逃げている。
何から逃げているのかと言うと……猪の頭を被った変な少年に、だ。日輪刀を持っているので、鬼殺隊なのだろう。
「ふははははは!猪突猛進!猪突猛進!!」
「(ちょっと待って、なんで追いかけてくるの?!)」
事の始まりは少し前に遡る。
鎹鴉の案内で辿り着いた先は、鼓屋敷だった。そこに男の子と女の子がいて、その子たちのお兄さんが鼓屋敷の鬼に攫われたらしい。
中を調べるため、炭治郎と善逸と共に入ると、子供たちも「怖い」と言って中に入ってきてしまった。…と、まあ…そこまでは良かったのだ。
問題はその後だ。
善逸が少しでも音がするたびに怯え、あろうことか近くにいた桜を尻で突き飛ばしてしまったのだ。
炭治郎や善逸と離れてしまったものは仕方がない。
彼らとて鬼殺隊の一員なので一緒にいる子たちは守るだろう、と考え、子供たちのお兄さんを探すついでに屋敷の中に潜む鬼を狩っていたら、遭遇してしまったのだ。…アレに。
「光の呼吸、弍ノ型 稲光」
前方に鬼がいたので反射的に頸を斬ったら、その鬼の向こうにアレはいた。そう、猪頭少年が。
どうやら桜が斬った鬼は、猪頭少年の獲物だったらしい。
…そこからだ。鬼ごっこが始まったのは。
「俺の獲物をよくも……!」
「あなたの獲物って知らなかったのよ、ごめんね」
「お前はあっという間にアイツを倒しやがった!畜生、俺と勝負しろ!!」
「え、なんでそうなるの?意味が分からない」
マジでどうしてこうなった、と走りながら考える。
元はと言えば、善逸がお尻で突き飛ばさなければこんなことにはならなかったのだ。…避けられなかったことに関しては柱として不甲斐ないが。
「(善逸…覚悟しときなさいよ)」
トトトトト、と軽やかに走る桜とドタドタドタ!と音を立てて走る猪頭少年の鬼ごっこはしばらく続き、二人の間にあった襖が閉まったところで幕を閉じた。
猪頭から逃れることができ、ホッと一息ついた。そしてその先にある襖を開けると、そこには怯えた子供が二人。一人は外で出会った女の子、てる子だった。もう一人は初めて見たが、てる子と一緒にいると言うことは…この子がお兄さんなのだろう。