第2章 家族の絆ー中編ー
「次ハ南南東〜!南南東〜!」
次の任務地へ向かう途中、関わりたくない光景を見てしまった。鬼殺隊の服を着た黄色い少年が泣き叫びながら女の子に求婚しているのだ。そして女の子はかなり迷惑そうにしている。
……上官として、ここは止めに入るべきなのだろう。
不本意だが……本当に不本意だが仕方がない。
空を見上げて、もう一度二人の方を見る。ふう、と溜息をつき、足を進めようとした時だった。桜よりも先に炭治郎が動いた。
困った人を見過ごすことなどできない性格なのだ。ここは彼に任せよう。うん、そうしよう。そう結論付けてこのまま見守ることにした。
汚い高音で泣き叫ぶ少年と、ゴミを見るような目をした炭治郎。
どうやら二人は顔見知りらしい。「お前のような奴は知り合いに存在しない!」と言っていたが、最終選別が一緒だったのを思い出したようだ。つまり二人は同期ということになる。
ん?同期??
ふとお館様の言葉が脳内で再生される。
“後に合流する二人の新人隊士のことも宜しくね”
なんという事でしょう……。
関わりたくないと思った少年は、自分が目をかけなければいけない人物の一人のようだ。
「…個性が強いなぁ」
柱ほどではないけれども。
ふう、と再び溜息を付き、炭治郎たちの方を見ると女の子がちょうど帰ったところだった。
「話は終わったみたいだし、そろそろ行くよ?」
桜が話しかけると、黄色い少年はワナワナと震え出し、炭治郎の胸ぐらを掴んで思いきり揺すった。
「…いいご身分だなぁ、炭治郎。俺とあの女の子の中を引き裂いたくせして、お前はこの綺麗なお姉さんと任務をしていたのか?!」
「は、話してくれ…善逸!」
脳が揺れる、と言いながら半分死にかけている炭治郎を助けるように桜が間に入った。
「初めまして。君の名前は?」
いきなり目の前に桜の顔が来たので、善逸は驚きと興奮で顔が真っ赤になった。気のせいだろうか、頭からプシューっと湯気が出ているように見えるのは。
「あ、あの、あ…我妻善逸と言います!お姉さん、俺と結婚して下さい!!」
「私、年下に興味ないので」
ストレートに断られて、善逸はガーン!と言う効果音とともに、へなへなと床に座り込んだ。そして汚い高音で叫び出したので、ゲンコツ食らわせて黙らせた。