第1章 家族の絆ー前編ー
「桜!…桜!!」
「…ん」
「こんな所で寝ていると風邪を引くぞ!」
私の身体を揺すりながら耳元で大きな声で叫ぶのは間違いなく双子の弟、杏寿郎だ。ただでさえ大きい声なのに、耳元で大声出されたら鼓膜が破れるではないか。…なんて頭の中で呟きながら目を開けると、風に揺られてふわふわと泳いでる太陽のような明るい髪が視界に入った。
眩しいなぁ、と少し視線をずらすと、クリクリとした大きな目を見開いてこちらを見ている杏寿郎。そんな大きな目を見開いていたら目がこぼれ落ちちゃうよ、と心の中で呟きつつ若干引いた。
「…杏寿郎、顔近い」
「む!すまない!!」
私から離れる杏寿郎に、相変わらず元気だなぁ、と苦笑する。
青空だったはずの空は夕焼け色に染まりかけていて、私はずいぶん長いこと昼寝をしていたようだ。
今日は母の命日で、墓参りが済んだ後、綺麗な花がたくさん咲いている今いる場所へと足を運び、天気も良く気持ち良くなって寝てしまったらしい。背中には土と花びらが付いていて、杏寿郎が「しょうがないな」と払ってくれた。
「…ありがとう。杏寿郎、お兄ちゃんみたい」
クスクスと笑う桜は母に似ており、まだ幼さは残るが可愛いと言うより綺麗だと思う。将来は間違いなく美人さんだ!
「む?俺たちは双子だ!桜の方が少し早く生まれてはいるが、俺は兄でも構わないぞ!!」
腕を組みながら、「弱き者を守るのは俺の役目だからな!」と言うその姿は自信に満ち溢れていて、少しだけかっこよかった。
でも、でもね、杏寿郎。
「…私、その辺の人よりはそれなりに強いよ?」
「うむ、知っている!だが、俺の守るべき対象は桜!君も入っているぞ!」
ニコッと笑うその笑顔が眩しくて、心がポカポカ…を通り超えて熱くなる。双子なのに性格や雰囲気は全く違う。杏寿郎が烈火の如く燃えたぎる炎ならば、桜は蛍火の如く静かに燃える炎なのだ。