第1章 家族の絆ー前編ー
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ああ…またこの夢だ。
大切な片割れが身体を貫かれて亡くなる夢。
彼の近くには泣いてる少年がいて……、きっと彼が最後を看取ったのだろう。私がその場に来たのは、列車の脱線事故で怪我人の手当てをしていたため、…激しい戦いが終わった後だった。
「杏寿郎!!」
普段声をあげることなどない私が、大きな声で叫んでしまうくらい、そのぐらい衝撃的なものだった。急いで駆け寄って抱き締めるけれど、いつもの温かさは無くなっていて、何でこんなことになっているのか理解できなかった。
杏寿郎が誰かと戦っているのは気付いていた。でも、怪我をした一般人をそのままにはしておけなくて…、心のどこかで杏寿郎は強いから大丈夫、って思っていた。
鬼殺隊にいる以上、生きるか死ぬかの日々だと言うのに……。この日私は、選択肢を一つ間違えてしまったのだ。
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何故このような見たくもない夢を見るのかは分からない。そして目が覚めると夢の内容は覚えていない。
そう、いつもなら目覚めと共に忘れてしまうこの夢が、今回はまるで現実だったかのように生々しく自分の頭に流れ込んでくる。
皆の言う“昔話”をやっと理解することができた。
この夢は私の“昔”の記憶なのだ。
私が生まれる前の記憶…“前世の記憶”だ。
全てを思い出し、色々な感情が溢れてくる。
楽しい、愛しい、懐かしい、辛い、悲しい、悔しい、憎い。そして怒り。
杏寿郎を殺した上弦の参を絶対に許さない。でも一番許せなかったのは、選択肢を間違えた私自身。“昔”の私が、死ぬまでずっと抱えていた感情。最終決戦で仲間と共に仇は取ったけれど、それで杏寿郎が戻ってくるわけではなくて……。ずっと…ずっと後悔していた。
杏寿郎の死と最後の言葉で、壊れた家族の絆が戻ったんだよ。責任感が強く、人一倍努力して、たくさんの苦難を乗り越えてきた貴方には長生きして幸せになってほしかった。
杏寿郎のおかげで私は十分幸せな時間を過ごせたから、今度は貴方の番だよ。
“神様、過去に戻ることができるなら…私を過去に戻して下さい”
私ではない“前の私”の声が頭に響いたのを最後に、私の意識は暗闇へと消えていった。