第2章 家族の絆ー中編ー
「腐った肉って…失礼ね」
「貴方たちもそう思う?」とニコッと笑いながら問いかけると、男二人は抱き合ってブルブル震えながら首を必死に振っている。
顔は笑っているが、只ならぬ気配に二人とも怯えていた。
「ま、鬼の言うことなんてどうでもいいわ。そちらの男性の方、お怪我はないですか?」
「…え?あ、はい」
「俺は大丈夫です」と言った後、目から涙が溢れ出てきた。彼も鬼に大切な人を奪われた一人だ。怪我はなくとも心は大丈夫なわけがない。
それでも前を向いていかないといけないのだ。
空を見上げると山の頂上から朝日が顔を出そうとしている。夜明けだ。
落ち着きを取り戻した青年に気を失った少女を託し、桜たちは歩き始めた。
毎夜少女を拐っていた鬼ももういない。この町の人たちも今日からまた穏やかな毎日を過ごすことができるだろう。
「ありがとう!君たちのこと、俺は決して忘れない!」
もう一度「本当にありがとう!」と涙を流しながら感謝する青年に手を振り、この町を後にした。
暫く歩いた後、桜は立ち止まる。それに気付いた少年も立ち止まった。
「…君の名前、教えてもらってもいい?」
「あ、自己紹介が遅れてすみません。俺は階級癸、竈門炭治郎です。えっと…貴女は鎹鴉が言っていた煉獄さんですか?」
「うん、煉獄桜です」
「暫く一緒に行動するから宜しくね」と手を差し出すと、ぱあっと明るい表情をして「宜しくお願いします」と言ってきた。
礼儀正しい少年だ。そして可愛い。歳は違うけど千寿郎と気が合うのではないだろうか。
いつか合わせてあげたいなぁ、なんて考えながら「私のことは名前で呼んでね」と伝え、また歩き始める。
そして炭治郎が緊張した声で話し出した。
「あの…禰󠄀豆子のことなんですけど……」
「…禰󠄀豆子って、その箱の中にいる鬼のこと?」
「…やっぱり鬼って気づいてたんですね」
「うん、気配が鬼だね」
君に会う前から鬼って知っていたけどね、とは言わない。そして、自分が“柱”だと言うことも今はまだ言わない。
いずれ分かる時が来るだろうから、それまでは内緒にしておこう。
そんなことを考えながら、禰󠄀豆子が鬼になった経緯やこれまでのこと、炭治郎の家族のことを教えてもらった。