第1章 家族の絆ー前編ー
私には双子の弟がいる。名を煉獄杏寿郎という。
責任感が強く、明るく元気で、例えるなら太陽のような人だ。時に燃え盛る炎のように熱すぎて、色んな意味で火傷する事もあるかもしれないが。そして声がクソデカイ。
そんな明るい弟だけど、偶に私を見る目が寂しそうで、何故そのような目で私を見るのか分からなかった。
でもそれは杏寿郎だけではない。もう一人の弟、千寿郎や父の槇寿郎、母の瑠火も同じなのだ。
もっと言うと、私の周りにいる仲良くしてくれている人たちも、だ。
“昔”の話をされたこともあるけれど全く身に覚えがなくて、母に相談したら「気にする必要ありませんよ」と困ったように笑って頭を撫でられたこともある。
私は一体何を忘れているのだろう……。
“昔話”を私だけが知らなくて…もし大切なことなら思い出したい。そう何度も思った。
幼い頃、泣きたくなるようなとても辛い夢をよく見ていた。でもその夢は起きるとどんな内容だったのか覚えていなくて……。大きくなるにつれてその夢を見ること自体無くなってしまった。
だから今朝その夢を久しぶりに見たときは驚いた。でもやっぱり目が覚めたら内容は殆ど覚えてなくて、悲しいという感情だけが残っていた。
気になって思い出そうと考えていたからだろう。凄い勢いで自分に向かって突っ込んでくる暴走車に全く気づかなかったのだ。
気付いた時にはもう車は目の前で、スローモーションのように見えるのに避けることができず、「ああ…ぶつかる」とそんな言葉が出てきた。
「桜!!」
聴き慣れた声を最後に私の意識はシャットダウンした。