第2章 家族の絆ー中編ー
桜は今、例の隊士の所……ではなく、別の場所へと向かっている。
鎹鴉が「急ゲ!急ゲ!」とは言わないので、今すぐ合流する必要もないのだろう。なので少しだけ寄り道しをしよう、と一般隊士なら絶対に近づきたくもないであろう風柱邸へと向かっていた。
大好きなおはぎを持って。
「さーねみん!」
風柱邸の玄関前まで来た桜は、中にいるであろう人物に聞こえるように大きな声で呼んだ。
「“さねみん”はやめろォ!」
ガラッと玄関の引き戸を開けて、額に青筋浮かべながら叫んだ。
「あ、出てくるの早かった」
出てくるまでもう少し時間かかるかなーって呑気に考えてたら、一分もしない内に出てきた。出てこなかったらもう一度大きな声で“さねみん”と呼ばってやろうと思っていたのに、……残念だ。
頭をガシガシ掻きながら「何度言えば分かるんだ」と心底嫌そうに呟いている。可愛いなぁ、なんて思いながらクスクス笑っていると、頭をポンッと叩かれた。
「何しに来たァ?」
「任務前の寄り道」
「さっさと任務に行けェ!」
しっしっ!と犬を追い払うかのような仕草をして言うので、ちょっと傷ついた。犬扱いされたことにちょっとだけ。
「せっかく実弥くんの好きなおはぎを持ってきたのにー」
「あ"?俺はおはぎなんて好きじゃねェ!」
「そうなの?私の勘違いか…。じゃあ冨岡さんのところに持って行こうかな、またねー」
「さっさと入れェ」
本当に素直じゃないんだから、と心の中で呟いた。
庭の見える縁側に腰をかけて、出してくれたお茶を飲む。…美味しい。お茶を飲みながら不死川の方を見ると、美味しそうにおはぎを食べている。
「餌付けされた犬みたい」
「あ?」
小さく呟いた声は聞き取れなかったようで、「何か言ったかァ?」と聞いてきたが、桜は首を振り「何でもないよ」と返事した。先ほど犬扱いした仕返しのようなものだ。
私より実弥くんの方がた犬みたい、と笑顔になる。
「美味しい?」
「ああ。どこのおはぎだァ?」
「私の手作り」と言えば驚いた顔をされた。失礼だな、私だって料理できるよ。
「…ありがとなァ」
久しぶりに見た優しい笑顔。
この顔が見たくて、寄り道したようなものだ。
“大好き”
この気持ちを伝えることは決してないけれど。
「どういたしまして」