第2章 家族の絆ー中編ー
「ごめん、しのぶ。暫く蝶屋敷に帰れない」
カナヲに訓練を付けていたしのぶは、キョトンとした顔で桜を見た。
「煉獄家に帰る…と言うわけではなさそうですね」
「煉獄家には帰らないよ」
帰ったところで父上に追い出されるだろうし、と苦笑しながら答える。杏寿郎や千寿郎には“帰ってきてほしい”と言われているが、今はまだ帰るつもりはない。
「素直じゃないですねぇ…」
「……父上に似てるからね」
顔ではなく、性格が。
逆に杏寿郎は母に似ている。…性格が。
「私としては桜が家に居てくれるのは嬉しいです。もう家族みたいなものですしね」
「ありがとう、私も同じだよ」
蝶屋敷は桜にとって第二の家であり、しのぶたち蝶屋敷に住む子たちは皆家族同然になっていた。
「暫く、と言うことは長期の任務ですか?」
「うん。…結構長いと思う」
任務がない時は蝶屋敷に運ばれてくる隊士たちの傷の手当てをしていた。医学や薬学に流通しているしのぶから色々と学び、たくさんの知識を得たのだ。桜は蝶屋敷に欠かせない、必要不可欠な存在となっていた。
「ごめんね、蝶屋敷が大変になるけど」
「構いませんよ。…最近の隊士は質が落ちてますからね、そこが問題です」
ふう、と溜息を吐き「やれやれです…」と困ったように言う。
「それよりも桜と会えないことの方が寂しいです。…気をつけて下さいね」
しのぶも隊士の育成には向いている方だと思う。現にカナヲは立派な隊士に成長している。今回の任務に適していると思われるが…。
チラッとしのぶの方を見るとニコニコと微笑んではいるが、お腹の中は真っ黒な上、強い怒りでいっぱいだ。
桜の任務にしのぶが行けば、間違いなく毒で瞬殺するだろう。仮に暫く行動を共にしたとしても、「あ、間違えちゃいました!失敗失敗」てへぺろ、と始末してしまいそうだ。
杏寿郎同様、間違いなく適任ではない。
他の柱たちも然り、だ。甘露寺に関しては大丈夫だろうが、色んな意味で心配だ。
“桜が適任なんだよ”と言ったお館様の言葉が分かった気がする。
「ちょっと特殊なだけだから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
気をつけて行ってくるね、と言い、蝶屋敷を後にした。
「…必ず、戻ってきて下さいね」