第2章 家族の絆ー中編ー
お館様の話も終わり産屋敷邸の庭を歩いていると、後ろから声がかかった。
「任務か?」
足を止めて振り返ると、そこには杏寿郎がいた。もうみんな帰ったと思っていたが、どうやら桜を待っていたようだ。
「…まあ、そうだね」
ちょっと特殊な任務だ。ある意味新人隊士の育成も兼ねているので、この任務は私より杏寿郎の方が確実に向いているのでは…と思うが、目の前にいる彼は正義感の溢れた男だ。例の隊士を前にすれば「隊律違反だ!鬼もろとも斬首する!!」とか言い出すに違いない。
仮にそうでなかったとして、万が一の時に「共に行動していたのに犠牲者が出てしまった。柱として不甲斐ない!俺も切腹する!!」と潔く自決しそうだ。
……やっぱ適任ではないな。
「うむ。大丈夫だとは思うが…気をつけるんだぞ!」
桜がそんな事を考えてるなど全く知らない杏寿郎は元気に言ったのだった。
柱になるまでは、杏寿郎と話すことなど殆ど無かった。桜が煉獄家に近寄るのを避けていたこともあるのだが、お互いに忙しかったことと、あんな形で別れてしまったことも原因の一つだ。
二人の関係は完全には修復出来ていない。
はじめの頃は、杏寿郎が仲直りするために必死に話しかけてきてくれていた。そして桜はそれを軽く無視していた。そんな状態が続き、いつしか杏寿郎は話しかけてこなくなった。街中や蝶屋敷で会えば挨拶ぐらいはしたが。
だが、あの頃から時間も大分流れた。お互いにもう子供ではないのだ。柱になり、話す機会が増えてからは以前のように普通に会話するまでになった。
鬼殺隊にいることも、今ではもう何も言われない。“柱として、共に頑張ろう”と笑顔で言ってくれた時は、自分を認めてもらえたような気がして正直嬉しかった。意地でも口には出さなかったが。
昔から杏寿郎はちゃんと歩み寄ってくれている。それを避けているのは他ならぬ桜だ。
素直にならないといけないことは分かってはいるが、もう少しだけ待ってほしい。
ごめんね、意地っ張りで。
でも、心配してくれてありがとう。
声には出さないが、桜の思いが分かっているのか杏寿郎はニコッと優しく笑ってくれた。