第1章 家族の絆ー前編ー
刀が届いて間もなく、初任務が舞い込んできた。
交換してもらった隊服に着替え、杏寿郎と一緒に父の部屋へと訪れた。初任務へ向かうための挨拶をするために。
父は相変わらず褥に寝そべって本を読んだまま、こちらを見ようともせずに「どうでもいい」とだけ言って、それ以降口を開く事はなかった。そんな父に「行って参ります」と伝え、部屋を後にした。
「スカートって履き慣れてないから、違和感しかないなぁ」
新しい隊服に交換して貰ったはいいが、下はスカートのままだった。膝上ではあるが、最初に着た服と違い、動くたびに見苦しいものが見えるほどの短さではない。おまけに割と動きやすいのと、これ以上交換してもらうのも面倒臭いので、腹を括ったのだ。
「…桜」
「ん?」
「刀の事だが……」
進めていた足を止めて振り返ると、杏寿郎も足を止めて真剣な表情で桜を見ている。
「刀が、…どうかした?」
「……炎刀ではなかった。炎の呼吸も弐の型までしか使えない。炎刀でなくとも炎の呼吸は使えるが…」
そこまで言って一度言葉を飲み込む。足元に目線を下げ、握り拳に力を入れる。この先の言葉を言おうか言わないでおこうか迷っているのだろう。
杏寿郎が言葉を出すのを静かに待っていると、意を決したように目線を上げ、桜を見据える。
「俺は正直、桜に任務に赴いてほしくない。それに、このまま任務に出ても危険なだけだ!」
杏寿郎からは、心配なんだという気持ちが痛いほど伝わってくる。一度目を閉じ、ゆっくりと開く。そしてフッと笑顔を見せた。
「仮に私に剣の才能があったとしても、鬼殺隊にいる以上は死と隣り合わせなんだから危険なことに変わりないでしょ?…私、しぶといからそう簡単には死んだりしないよ」
「それに危険なのは杏寿郎も同じでしょ!」と言うと「むう」と、よくわからない言葉が返ってきた。
「心配してくれてありがとう。でもね、心配なのは私も同じなのよ?」
「……!!……そう、だな」
「ねえ杏寿郎、約束しよう。この先怪我をする事は多々あるだろうけど、“必ず生きて帰る”と」
杏寿郎は目を見開き驚いた表情をしたが、その後フッと笑い、大きな声で言った。
「ああ、そうだな!約束だ!!」
そしてお互い小指を出して指を絡めた。
「…うん、約束」