第4章 ご都合血気術
「あの同じ顔をした男の人たちはとても優しいんです」
「???」
「桜さんはこのお家で今日一日過ごしてほしいんですが、いいですか?」
ここはあなたの家なので…とも言えず、今日一日だけ煉獄家で過ごしてほしいとだけ伝えた。
「…お父さんとお母さんは?」
不安そうに見上げる桜。彼女の両親は数年前に鬼に襲われ命を落としているため、もうこの世に存在していない。
「……桜」
杏寿郎が桜の目線に合わせて話しかける。
「ご両親は遠くへ行っていて、今日は帰ってこないんだ。だからこの家で俺たちと一緒に居てくれないだろうか」
困ったような、でも優しい眼差しで話しかける杏寿郎に、桜は小さく「うん」と頷いた。
「桜、この家にいてもお邪魔にならない?」
「ならない。だから一緒に居てくれ」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん!」
「……よもや!!」
いきなり大きな声で叫んだ杏寿郎に「五月蝿いですよ」と、しのぶが言い、「今何時だと思っている」と渋い顔をして槇寿郎が言った。そして千寿郎は苦笑している。
だが、叫びたくなるのも仕方がない。笑顔で“お兄ちゃん”と言われたのだ。幼女趣味と言う訳ではないが、これはこれで中々にくるものがある。
好いた女性なら尚のことだ。
「……杏寿郎、手は出すなよ」
「…煉獄さん。もし間違ったことをしたら……どうなるか分かってますよね」
「……よもや!!」
「………兄上、心配なので桜さんは俺に任せて下さい」
千寿郎はそっと桜の肩に手を置き、一緒に朝餉の準備をするため、台所へと向かった。
「桜ね、毎日お母さんのお手伝いをしてるの。だからお兄ちゃんのお手伝い頑張るね!」
ニコッと笑顔で言う桜を微笑ましく思い、千寿郎は膝を曲げて目線を合わせ、「ありがとうございます」と頭を撫でた。
その光景が歳の離れた仲の良い兄妹に見えて、杏寿郎は「二人が尊い……!」と天を仰ぎ、片手で目を押さえた。