第4章 ご都合血気術
「煉獄さーん、いますかぁー?」
日がまだ昇り切らない薄暗い時間帯に、煉獄邸にしのぶの声が響き渡る。
「胡蝶か!どうした!!」
しのぶたちが煉獄邸に来る少し前に、タイミング良く杏寿郎は任務を終えて帰宅していた。そして杏寿郎が玄関へと顔を出したとき、後ろから「夜明け前にどうされたんですか?」と目を擦りながら千寿郎も出てきた。
それだけではない。少しはだけた格好で、胸をボリボリと掻きながら「こんな時間に騒々しい」と槇寿郎までもが出てきた。
思い出して欲しい。冒頭で言ったしのぶの言葉を。そう、この家の住人は全員“煉獄さん”なのだ。
“煉獄さーん!”なんて呼んだら、みんな出てくるに決まってる。
「すみません、でも皆さんお揃いでちょうど良かったです」
説明の手間が省けますね!とにっこりと微笑みながら村田の方を向くしのぶ。
「さあ村田さん!ちゃーんと説明してあげて下さいね」
「……ハイ」
ついに来た……!緊張し過ぎて胃がキリキリしてきたが、こればかりは仕方がない。
「あ、あの…」と言葉を発すると、同じ顔三人が同時に此方を見たので思わずチビりそうになったのは内緒だ。
「す、すみません。実は桜様なんですが…」
「桜?まだ帰ってきていないが…桜がどうかしたのか?」
そう問いかける杏寿郎に、一人の少女が視界に入った。
「む?胡蝶!そこにいる少女は誰だ?桜に似ている気もするが」
「あら、嫌ですねぇ煉獄さんったら。似ているのではなくて、桜さん本人ですよ」
桜の両肩に手を置いて、にっこりと微笑みながらしのぶは言った。
その瞬間、煉獄家の三人は一斉に桜を見るものだから、「ひえっ!」と怯えてしのぶの後ろに隠れてしまう。
しのぶはため息をついて、「そんな風に男性三人に凝視されたら怯えちゃうに決まってるじゃないですか」と、額に青筋を立てた。
「桜さん」
「…なあに?お姉ちゃん」
「……っ!」
上目遣いで不思議そうに見つめてくる桜はとても愛らしく、そのままお持ち帰りしてしまいたい。
そんな衝動に駆られたが、彼女の家はこの煉獄家なのでそう言うわけにもいかない。