第1章 家族の絆ー前編ー
今目の前にいるのは、ニヤニヤと、でもどこかガッカリしたような表情をしている前田という隠の男。
最終選別から早二週間が過ぎようとしていたとき、事件は起きた。刀が届けば初任務に行くことになる。その為、一度支給された隊服に袖を通した。…袖を通したところまでは良かったのだ。
「何この服」
ボソリと呟いた言葉なのに、襖を挟んで隣の部屋にいた杏寿郎にはバッチリ聞こえていたようで、「どうした!」と勢いよく襖を開けた。
「あ、兄上……!」
千寿郎が止めようとするも、それはもう清々しい程にスパーン!と良い音がした。私が着替え中だと言うのに、確認もせずに目の前の男は襖を開けやがったのだ。
そして私の姿を見て、ピタリと動きを止め固まった。
「姉上は着替え中なんですから、勝手に開けては…ダメで…」
“すよ”まで続くはずだった千寿郎の言葉は、桜の姿を見て杏寿郎同様ピタリと固まってしまった。
「破廉恥だぞ!!」
我に返った杏寿郎が顔を真っ赤にして叫んだ。千寿郎も隣で顔を真っ赤にしてブンブン縦に振り頷いている。
…勝手に着替え中の女の部屋の襖を開けた杏寿郎の方が破廉恥だということに気付かないあたり、桜の格好を見て動揺しているのか、本当に何とも思っていないのか…後者でないことを祈りたい。
隊服を着たのは良いが、釦が一番上と下の方にしか付いておらず、胸元が大幅に開いた何とも言い難い服なのだ。そして少し動けばお尻が見えてしまうのでは…と言うくらい短いスカート。
これは明らかに変だと思い、鎹鴉に伝言を頼んだら、担当の隠が来てくれたのだ。
そして冒頭に戻る。
「この服変じゃない?杏寿郎のと違うんだけど」
杏寿郎がこの服を着たら…面白いとは思うが見苦しいだろう。怖い鬼も悲鳴をあげて逃げていきそうだ。
「男性と女性とでは作りが少し違うんですよ」
それも公式の隊服です!と鼻息荒く言う隠の前田まさお。「その美しい生足!良い…!最高です」とうっとり眺めるように言葉を発した後、活き活きした表情から一変し、眉を下げ残念そうに呟いた。
「でも胸元が……寂しくて残念です」
その言葉を聞いた瞬間、桜は近くにあった木刀を前田に投げ付け、目の前で隊服を燃やしてやった。