第6章 偉人のまねをしてみましょう
その気持ちを察した様に、兄ちゃんは苦く笑う。
「今でこそ普通に暮らしてるが、その時は生死の境を彷徨ったんだ。
生存は絶望的。仮に生存出来て生活することも儘ならないだろうって告知を受けた。」
私は二の句が継げないまま、黙して聞く。
「俺のせい、なんだ…。俺が父さんに駄々こねたから…。」
兄ちゃんは、そう言ってまた俯いた。
「その時、母さんが出産で色々大変で…。母さんも一時期危うかったんだ。出産前から度々入院してて、出産も難産で。
やっと作ってもらった俺の時間に、思い切り遠出をしたかった。そしたら、あの出来事に遭ったんだ。」
全然知らなかった。
そんな事があったなんて想像すらした事がなかった。
「俺さえ我慢してたら…」
苦々しく言う言葉を、最後まで聞かずに兄ちゃんの頭を抱き込んだ。
「…ごめん。私のせいだ、それ。」
私のせいで幼い兄ちゃんを苦しめた。
でも、それって…どうしようも出来ない事だと思う。
「違う、お前のせいじゃ…」
「それ言うなら、兄ちゃんのせいでもないでしょ。」
兄ちゃんは押し黙った。
「だから、自分のせいとか、我慢してたらなんて言わないで。」
私がそう言うと、兄ちゃんは私の服をぎゅっと握り込んだ。
「…あと、ごめんね。辛いこと話させて。」
私も更にぎゅっと抱き込んだ。
すると、もぞもぞと兄ちゃんが動く。
「…くるしい。」
「あ、ごめん。つい。」
少し腕を緩めると、兄ちゃんはそのまま私の胸を押して引き剥がす。
その顔はぶっきらぼうで、少し赤くて…。
「ふはっ。」
普段は絶対見れない表情に思わず吹き出した。
「ふはっ。」
兄ちゃんも吹き出した。
で、なんか可笑しくなって二人してお腹を抱えて笑い出した。