第5章 春はやっぱり桜だね
「…エニシは強くなったな。」
組手の最中、イタチがぽつりと言った。
シスイは続けながらも言葉を受ける。
「まぁ、最近は特にな。頭を打ったあの日から色々変わってな。真面目に修行するようになったんだ。」
そうか、とイタチは一手を返しながら相槌を打った。
「…あいつは相手の動きを見てすぐに覚えてしまう。そしてそれを取り入れ、すぐに返すことが出来る。」
イタチは校庭での一悶着を思い出していた。
エニシが勝ったことは素直に嬉しいし、同じうちはとして喜ばしいことだとは思う。
だが、エニシもいずれは忍になるのだろう。さすれば彼女も戦いの、戦争の一端を担うことになる。
争いがまた広がる事を思うと、イタチは素直には喜べなかった。
「…アカデミーで何かあったのか?」
シスイの問いで、思考の渦から呼び戻された。
イタチの表情から勘違いをしたらしい親友が、静かに眉を顰めていた。
それを見て、イタチが少し笑う。
「心配か?」
問うと、シスイは憮然とする。
「そりゃそうだろ。妹なんだから。」
普段あまり取り乱すことがないシスイでも妹には弱いんだな、と思うと、イタチは何だか少し可笑しかった。
「大したことじゃない。エニシが決闘を挑まれていて、返り討ちにしたところを偶々見かけてな。
いい動きだった。相手の動きをすぐ様読み取り、それを即座に返していた。」
シスイはそれを聞いて舌打ちをする。
「あのバカ…。」
心配が過ぎるのか、はたまたエニシが申告しなかったことが気に入らないのか、シスイは攻撃が疎かになるくらいには感情が乱されたらしい。
「…隙あり、だな。」
イタチは、気を取られ緩んだ左側に上段蹴りを繰り出す。
「ぐっ……!」
シスイは、何とか防いだものの、重たい攻撃に芯を保っていられなかった。
ぐらついた瞬間を逃すイタチではない。
更に蹴りを繰り出し、体勢を崩したシスイにクナイを突き付けた。
「勝負あったな。」
ふっと笑い、手を差し出すイタチに、シスイは憮然としながら手を取った。