第5章 春はやっぱり桜だね
全速力で走る二人に、ひぃひぃ言いながらも死に物狂いでついて行く。
かれこれ、一時間は森の中を走り回っている筈なのだが、一向にスピードが落ちる気配はない。
これ、いつまで続くんだろう。
めちゃ苦しい。
そろそろ足が限界を迎えそう。
息が苦しくて喉がヒリヒリする。
時々兄ちゃんが振り向いて私がついて来ているかを確かめる。
私がついて行けなかったら、きっと兄ちゃんはペースを落とすんだろうな。
そしたらきっとイタチもペースを落とすんだろう。
そうなったら私は完全に足手まとい。
…絶 ・ 対 ・ 嫌。
そんなん私のプライドが許さない。
死んでもついて行く。
それから更に一時間。
漸くスタート地点まで戻って来た。
二人は着いて早々、忍組手を始めている。
私はと言えば、
「…無理…、もう、無理…。」
木の根っこに座り込んで屁張っていた。
いや、無理でしょう?
今日一段とペースも早かったし、かなり距離あったよ?
途中でご先祖さまの像が見えたよ?あれ、国境だよね?
私頑張った。
体力お化けの二人によくついて行った。
途中で投げ出さなかっただけでも御の字だ。
つーことで、もう帰る。
これ以上はもう無理っす。
私は息が整ったところで、がくがくする足を宥めすかすようにして立ち上がる。
「帰るのか?」
兄ちゃんの声が聞こえて振り向くと、二人が手を止めてこちらを見ていた。
「うん、今日は先に帰るわ。体が重い。」
私は木に手をつきながらふらふらと歩き出した。
「…送ろうか?」
あまりのふらふら具合に思うところがあったのか、兄ちゃんが言うが、私は首を横に振る。
「大丈夫、一人で平気。」
なんか前にもあったなぁ、このやり取り。
内心、笑いながらも兄ちゃん達に手を振る。
そして、転ばないようにだけ注意し、真っ直ぐ家へと帰って行った。