第5章 春はやっぱり桜だね
「やっぱ、ここだった。」
私の声に気がついた兄ちゃんがこちらを向く。
「帰ってきたのか。」
振り向いたその顔には、大量の汗が流れていた。
もう既に汗だくって、どんだけやったの?
「さっき帰って来たばっかり。兄ちゃんはいつ帰って来たの?」
「昼過ぎ位…かな。予定より早く終わってすることがなくてな。」
「昼過ぎって…。もう四時近いよ?」
最低でも三時間はやってる計算だ。
「これからイタチと約束してるんだ。お前も来るか?」
「え…。まさかまだ鍛錬するの?」
「当たり前だろ。他に何やるんだよ。」
普通この年代は、遊ぼうぜ!とかなるんじゃないかな。
凄いと尊敬すべきか、化け物じみた体力に慄くべきか…。
迷うわ〜。
兄ちゃんは私の顔を見て、思うところがあるのか半眼で私を見る。
「…来るのか来ないのか。」
「行くよ、行く。ただちょっとびっくりしたんだよ。」
「お前が体力なさすぎなんだよ。」
「いや〜、どうかな。私はごく普通な気がする。」
私が視線を逸らしながら言うと、お前なぁ、と兄ちゃんが呆れながらため息をつく。
「忍になってからの体力不足はキツいぞ。今のうちから鍛えとけ。」
最近言われる様になった小言が出た。
お陰で、もう耳にタコが出来た。
「分かってるって。忍は体が資本。」
まぁ、確かにこれ大事。
現場で屁張ってたら命取りだ。
「じゃ、今からやる走り込みにしっかりついてこいよ?」
「げっ。最初から?」
「当たり前だろ。」
当たり前なんだ…。
「…そっすか。」
私は肩を落とした。