第5章 春はやっぱり桜だね
ただの喧嘩か…。
イタチは途端にどうでもよくなった。
帰ろうと歩を進めたが、途中で止まった。
この勝負の行方が何となく気になってしまったのだ。
他の者ならば、イタチはそのまま帰っただろう。
だが、主役はエニシだ。
彼女がどう戦うのか見てみたくなった。
少年の一人が開始の合図を出すと共に、キン!とクナイが交じり合う。
両者はすぐ様引いて素早く体勢を整えると次の攻撃に移る。
掌底、蹴り技、拳など、様々に繰り出すが、若干エニシが押されている様にも見える。
「気づいたか!今までの俺だと思ってたら痛い目見るぞ!」
成程。
正に雪辱を晴らす為の決闘という訳か。
イタチは口元に少しの笑みを乗せる。
「どう出る?エニシ。」
彼の小さな呟きは、周りの歓声にかき消されて誰の耳にも入らない。
だが、その呟きに呼応するかの様に、エニシの動きが少し変わる。
相手の動きに、徐々に呼吸を合わせるかの様な動きを見せる。
それはやがて相手の速さ、精度を抜いていく。
「見て覚えたか。」
エニシは、少年の動きの中で攻撃力が高いところを真似ているのだとイタチは気づく。
「勝負あったな。」
イタチが呟くと同時に少年の体勢が崩れ、エニシのクナイが突き付けられた。
イタチは、ふっと笑うと歩き出す。
今度こそ家に帰る為に。
勝負のついた喧嘩に、これ以上用はない。