第5章 春はやっぱり桜だね
始まりの合図と共に、クナイが交じり合う。
そのまま互いに少し距離を取り、再び駆け出すとトウキが蹴りを、私が拳を繰り出す。
これもまた互いに防ぎ切った。
あれ?トウキの腕が上がってる?
速さ、力、精度。どれをとっても少し良くなってる気がする。
力が拮抗してる感じ。
まずいかも。
さっさと終わらせようと思ってたのに、これじゃ帰れない。
「気づいたか!今までの俺だと思ってたら痛い目見るぞ!」
そう言って、勝ち誇ったように笑うトウキ。
…腹立つわ〜。
よっしゃ、本腰入れて受けてやろうじゃないの!
私は気合いを入れ直して、注意深く相手の動きを見た。
拳の癖、蹴りの癖、武器を使う瞬間の予備動作などなど。
段々と鏡合わせのように技がぶつかり合う瞬間が多くなる。
そして、意識して技の間隔を狭めていく。
「くそ!」
トウキが焦り出した。
技や精度が落ちていく。
拳を避けて払った瞬間、胴体に隙が出来た。
見逃す事なく、掌底を打ち込んでトウキの体勢を崩してクナイの切先を突きつける。
「……!」
トウキが驚いたような悔しそうな顔をしていた。
私は体を起こしてクナイをしまうと、
「じゃ、帰るわ。」
と言って、そのままその場を後にした。
「これで終わりだと思うなよ!!」
トウキがお決まりとなったセリフを叫ぶが、私は振り向かず片手を上げて手を振る。
一々構っちゃいらんない。
さて、今日も修行しなきゃ。