第19章 お別れと始まり
ふと気がつくと、耳は轟々とけたたましい水音を拾い、見上げれば空はぼんやりと明るくなっていた。
下を見れば、血、血、血…。
足元でさえ血の水溜り。
人はそこかしこに転がっていて、ぴくりとも動かない。
ざまぁみろ
最初に思ったのはそんな言葉だった。
可哀想だな、とかっていう同情のようなものは微塵も湧かなかった。
手に残る感触は、
刃物を握った時のもの。
肉を割いた時のもの。
自分がやったんだなぁっていう自覚が芽生えていく。
「臭い…。」
血の匂いが鼻について気分が悪い。
私はこの惨状を気に留めることなく歩き始める。
終末の谷を降りて、水の緩やかな所でざぶんと全身浸かり、水の流れに身を任せるように体から力を抜く。
赤い液体が白色に混じってゆるゆると流れては消えていくのを、ぼうっと見ていた。
私も消してくれないかなぁ…。
なんて、思いながら。
心を無にしようともがいたって、痛いものは痛いし、苦しいものは微塵も消えてくれなかった。
川から上がり、水を拭うことなく、ぼたぼたと水を垂らしながら森へと入っていく。
私は生きないといけなかった。
それが兄ちゃんの望みだから。
それしか、私に出来ることがもうなかった。
何を食べる気にもならず、彷徨う様にのたり、のたり、と森を歩く。
何度も陽が沈んで、何度も夜明けを見た。
何人かの襲撃を受けては、また血溜まりの中で気がつくのを繰り返した。
兄ちゃんが死のうが、私が死のうが、きっと何事もなく明日がきて、明後日がくる。
なんて、残酷な世界だろう。
誰も何も私達の事なんて構いやしない。
こんな世界の中に、これから私はいなきゃならないなんて…。
日付の感覚もなく只々歩き続けた結果、それなりに賑わった街に流れ着いた。