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もう一度、を叶えるために。first

第19章 お別れと始まり





手を引かれて逃げて、逃げ惑った先は終末の谷。

ご先祖様の石像の上で私達は息を切らしながら膝に手をついた。


「何で…?どうして…?」

逃げてって言ったじゃん…!

「お前の言った通りになったな…。」

兄ちゃんは力無く肩を落とした。

「それで危ない目に遭ったら世話ないよ…!」

息が整ってから私は体を起こした。
久々の全力疾走は足にくる。

とにもかくにも兄ちゃんの状態を確認しなきゃ。
ダンゾウと鉢合わせたんなら何かされたかもしれない。

そう思って兄ちゃんに触れてから、漸く気がついた。

「何、で…?」

影分身なの…?
本体は…?

「俺はもう助からない。」

はっきり言われたその言葉に、愕然としながら手が滑り落ちた。

「そんな…。何で、どうして!?」

「片目を奪われた時に蟲の毒を仕込まれた。解毒は絶望的だ。」

「う、そ…。うそよ…。そんなの…!」

てっきり片目を奪われるだけかと思ってた。
違うだなんて…。

「どうせ終わる命なら、俺はイタチに最後の力を託したかった。」

どうして?
どうしてそうなるの?

「…なんでよ…。私と約束してたじゃん…。」

「ごめんな…、エニシ…。」

「ひどいよ…。これから私ひとりぼっちなんだよ…?」


どうやって生きていけばいいの…。


「…エニシなら生きていける。一人でも生きていけるよ。俺よりお前の方が強いんだから。」

「嘘ばっかり!兄ちゃんに勝った事なんて一度もないじゃん!!」

「その強さじゃない、心の強さだ。お前ならやれる。」

やれない!
出来っこない!!
兄ちゃんがいなきゃ!!

かぶりを振る私を宥めるように、兄ちゃんは両手で頬を包み込んだ。

「エニシ、覚えてるか?幼い頃…お前が記憶を取り戻したあの日…。」

覚えてる…。
あの日から全てが始まった。

「お前はよくやったんだ。今の今まで…限界までやり切った。」

「でも…でも…!本当は、一番は兄ちゃんを助けたかった…!」

「分かってる…。」

「兄ちゃんに生きてほしいのに…!」

なのに…。

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