第19章 お別れと始まり
「エニシ!相手の動きをよく見ろ!」
「よく見ろったって…!」
でも、助かりたいなら言われた通りにしなきゃいけない気もする。
私は怖気付く自分を叱咤して、相手の動きを見ながら振り回される短剣を避けていく。
あれ…?
出来る…。
出来ないと思っていたことが出来て自分で自分にびっくりした。
避けてるうちに、どう動くのが正解で何をどうすればいいのか分かってくる。
っていうか、体が覚えてる感じだ。
「ぐあ…っ!」
下から懐に入り込んで、鳩尾に掌底を打ち込んでから、顎目掛けてジャンプで拳を打ち込み、飛び上がりながら首を蹴り倒した。
この感じ、凄く覚えがある。
私、こういうのをよくやってたし、誰かに教わってた。
誰に…?
私を連れて来た人は、多分同じ一族の人。
だって、いつかのあの人達と同じ赤い眼だもん。
それに…。
よくよく見てみると顔が私と似ている。
もしかして…。
ざわざわと心が騒めきだして、心音が嫌な音を立てながら乱れ始めた。
この人を死なせちゃいけない。
衝動的にそう思って、苦戦しているその人の助けに入る。
「…っ!?逃げろって言っただろ!!」
「出来ない!一人でなんて逃げられない!」
したらきっと後悔する!
それは分かる!
「馬鹿!!言うことを聞け!!」
何と言われようが譲れない!
私の頑なさを悟ったらしいその人は、舌打ちすると大きな火の玉を出した。
「ぐあぁぁぁ!!」
人の焼ける気持ちの悪い匂いが立ち込めて吐気が喉元まで競り上がった。
「よくも…!」
血走った目を向けられて怯みそうになる自分を叱咤しながら、懸命に対応していく。
私に気を取られている隙をついて、一族の人が短剣を二本投げたらしい。首元に二つとも刺さり、よろめいた。
「ぐ…ぅ…。」
私は咄嗟に、刺さった二本に手を伸ばして掴むと、更に押し込んでから傷を広げるように引き抜いた。
「が…ぼ…っ…。」
ねっとりとした生温い液体がびちゃっとかかり、一気に吐気を催す。
「来るぞ!走れ!」
息を整える暇もなく腕を取られてまた走り出した。
初めて人を殺した感覚がこびり付いて離れない。