第18章 記憶喪失に…なりました?
師走の末。
がやがや、ばたばたと忙しかった人々も落ち着きを取り戻し、賑やかだった街は静けさを取り戻しつつある。
寒い中、独特の浮き立つ空気が漂うこの季節は皆が新しい年に想いを馳せるのだろう。
その中を別の世界から見渡すようにして眺めながら、イタチは自宅へと戻っていく。
街を抜け、河原を通り過ぎ、里の端にある家紋が掛かる正門へと入ると、先程までの賑やかさが嘘のように鬱々とした世界が広がった。
家々に明かりが灯されてはいるが、殆ど物音もせず、人々の楽しそうな話し声もしない。
最早見慣れたその風景に、イタチは何の感慨も沸くことなく淡々と足を進めていく。
うちはの中央にイタチの家はあった。
いつものように門を入ろうとした時に、いつもとは違う違和感を感じて上を見上げた。
そこで見つけたのは、真っ黒のローブを纏った小さな人影だった。その人影はイタチが気づいたのを察して立ち上がると、フードをぱさりと落とした。
その顔に見覚えがあり過ぎて、イタチは息を呑む。
「エニシ…!?」
思わず名前を呼んでしまい、イタチは慌てて口を片手で覆い、周りを見回した。
幸いにも人の気配は皆無で、見咎められてはいないだろう。
ほっと息をついてもう一度見上げると、エニシは小さく笑ってすっと音もなく屋根から屋根へと飛び移っていく。その様は記憶を消されたとは思えない、滑らかな動きだ。
やがて宅地を通り過ぎ南賀ノ神社を抜けて、街へと繋がる道まで辿り着いた時、エニシは足を止めてイタチを振り向いた。
「何故…。」
その眼には写輪眼が赤々と浮かんでいたのだ。
それは、シスイの術が破られたことを意味する。
「いつからだ、エニシ。」
―いつ術が解けた?
イタチが動揺を押し隠すように問うと、エニシは眼を伏せて緩く首を振った。