第18章 記憶喪失に…なりました?
「エニシ…。」
絞り出すように紡がれた呟きを、イタチは隣で拾う。
「…悪い、先に帰る。」
イタチは返事を返すことも出来ずに無言で頷いた。
それを合図に、しゅっとシスイの気配が消えた。
イタチは一度目を瞑り、大きく息を吸って吐き出した。
サスケが何事かエニシに詰め寄っていて、彼女は困惑しているようだ。
大方予想はつく。
だが、サスケには悪いがエニシのことはそっとしておきたい。いや、そっとしておいてやりたかった。
「サスケ!」
近づかぬまま弟を呼ぶと、サスケは気づいて走り寄ってきた。
「兄さん、エニシがいるよ!元気そうだよ。なのに何で戻ってこないんだ?それにちょっと変なんだ。何があったか聞いても困ったようにするばかりで何も答えなくて…。それに…」
サスケは、少し怒ったように困惑を全面に出してエニシを指をさし、しきりにイタチに説明する。
イタチは何も答えぬままサスケの頭を撫でると、エニシを改めて見る。
初めて見る彼女のワンピース姿に、住む世界が変わってしまったことを寂しく思った。
すると、エニシはまるで他人にするように少しぎこちなく会釈をしてきて、イタチは目を瞠る。
その時初めて、彼女の中で自分の存在は消されてしまったのだと実感した。そして、それはじくじくとした痛みに変わり、広がっていく。
「…兄さん?」
サスケの問いかけに、はっと我に返ったイタチはかなりぎこちないながらも会釈を返す。
隣ではサスケがそれを唖然と見ていた。
それきり、エニシはこちらを見ることなく、イタチ達に背を向け歩いて行ってしまい、イタチも少し肩を落としながらエニシに背を向けた。
「兄さん、エニシはどうしたんだよ。何で一族と一緒に暮らさないんだ?」
イタチに手を引かれながら、サスケは悲しそうな横顔を見上げてそっと疑問をぶつける。
「それしか…。そうするしか、ないんだ。」
どうにもならないもどかしさを言葉の端々から感じ取ったサスケは押し黙って俯いた。
二人は足取り重く、家へと戻って行った。