第18章 記憶喪失に…なりました?
う〜ん、どこまで言うべきか。
実を言うと、この半月の間にうちは一族が住んでるって聞いた住宅街に行ってみたの。
で、家紋が垂れ下がってる正門近くまで行ったんだけどね、何故かそこで足が止まっちゃった。
そこから先に行く気にならなかったんだよ。
遠目に家紋を見ただけで、心がざわざわと波立って胃がむかむかとしてきた。
まるで静かな水面が竜巻に荒らされて収拾がつかなくなるような…そんな予感。
あぁ、これは近づいちゃいけないって本能的に悟ったの。
それ以来思い出したいなんて露ほども思わなくなった。
「…ナルトはさ、私は家族仲がいいと思う?」
聞いたら少し驚いた後、思い出すように視線を俯かせた。
「…エニシの兄ちゃんになら会った事があるってばよ。」
驚きだわ。
私達って、知り合いってだけじゃなかったのかな?
「私の家族を見た事があるの?」
「一度だけな。その兄ちゃんとはすっげぇ良かったように見えたってばよ。」
「そっか…。」
私にはお兄さんがいたんだ。
「それならさ、もうとっくに迎えに来てもいい筈じゃない?でも、家族ですってここを訪ねてきた人は誰もいないんだよね。」
「お前がここにいるって知らねぇんじゃねぇか?」
「ううん、知ってるよ。そもそも、病院で記憶喪失の診断を受けた時に、家族には連絡がいってるの。でも、引き取りしませんって言われたんだって。」
「…そん、な…。」
「前は良かった家族仲でも、今は悪いのかもね〜。」
「笑い事じゃねえだろ!?」
「笑い事になるくらい、私は気にしてないってこと。薄情かもしれないけどさ、家族のこと思い出したいなんて思わないんだよね。」
そう言うと、傷ついたような顔になってしまって益々困った。
「いいんだよ。ナルトがいるから一人じゃないし。今が楽しいからそれでいいんだよ。」
「エニシ…。」
嬉しいような悲しいような複雑な顔をするナルトは、そのまま何も言わなくなった。
私はそれを見て、ゴロンと寝転ぶ。
不思議と今まで、家族がいないって事実に胸を痛める事はなかった。
それに、思い出そうとして苦しくなるくらいなら、想い出なんて…記憶なんていらない。
私は家族の元へは、戻らない。